蟻の葬列

*アクセル過去捏造
*American Civil Warについて描写があるが曖昧

戦争は南部連合がアメリカ合衆国に敗北する結果となった。戦後、南部の元農場主である白人貴族たちは没落していった。
私の家も例外ではない。父さんは無事に帰ってきて、なんとか農場を復興させようと頑張っているけど昔みたいな裕福な生活はもう無い。今日も朝食は豆のスープと芋の蒸したやつだけだった。アイスクリームやライムの砂糖漬けが恋しい。

戦争から帰ってきたアクセルも人が変わった。昔は音楽とお酒が好きで、愉快な人だったのに帰還してきてからは口数が吃驚するほど少なくなり、どこを見ているのか分からない虚ろで暗い目をするようになった。家に篭もりがちになった彼が心配で毎日様子を見に行くけれど、以前は整頓されていた部屋も今は物が乱雑に散らかり、まるで泥棒に入られたみたいな有り様になっている。
かと思えば、戦争中に使っていたヘルメットを躍起になって綺麗に磨いている時もあった。深緑色が沼の底みたいで何故かすごく恐ろしかったのを覚えている。
「なにもかも捨ててしまえたら良いのに」
たまに彼はそんなことを呟いて私に縋りついて声を殺して泣くようにもなった。
理由を何度聞いてもアクセルは教えてくれなかったが、多分戦争に原因があるということは分かっていた。

「……戦争で何があったの?」
ある日、そう声をかけた瞬間にアクセルは泣くのをぴたりと止めた。代わりにいつもは打ち落とされた鳥のように虚ろな目が、ぎらぎらと光を放って私に向けられた。同時に背中を抱いていた彼の手がゆっくりと首にかかるのを感じた。静かな殺気があった。絞め殺される、と思った。だが抵抗はしなかった。
「聞きたいのか?」
いつもより一段と低い声で問われた。ぐっと少しだけ首に圧力がかかる。喉が窮屈になる感覚に思わず息を飲んだ。
あとちょっと力を加えればきっと私の首なんか折れてしまうんじゃないだろうか。意外にも自分の死にざまを想像できるくらい、心は穏やかだった。そして戦争は何もかも変えてしまったのだと改めて理解する。
私は黙ったままふるふると首を振った。
それを見て「そうか」とアクセルはもうぎらぎらとする目をやめたが、相変わらず首には彼の掌が触れていた。彼の暗い色の目にまた薄らと涙の膜が浮かぶ。沈黙する私達。家の空気が鉛のように重苦しく感じた。
今度はうんと肯けばいいだろうか。首にある傷だらけの両手を見下ろしながら思う。
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