昭和基地からスバールバルまで

いかれた不思議の国に落ちる女の子の話を唐突に思い出した。不思議の国では何もかもがとち狂ってて、一般世間のルールやモラルなんてものが通じない。

「このあいだ依頼で始末した女の死体漁ったら胃袋ン中から指輪出てきたって話したっけ?すげぇラッキーだろ?」
「ラッキーでも何でもない、金目の物を体内に入れてるやつが多いからな。女の場合は胃袋かあっちの穴の中が多い」
「うわぁ痛くねぇのかな膣ん中とか」
「ネックレス引きずり出した時は感じながら泣きわめいていた」
「それめっちゃ笑える」
私の目の前でシルクハット男と軍人男がだらしなく椅子に座って胸が悪くなるほど下品な話をして笑ってる。よくそんな話をしながら肉料理なんて食べれるなと思う。私はすっかり食欲が失せてナイフとフォークを置いていた。
「大統領公認刺客の顔合わせを兼ねた食事会」っていうからもっとマトモな人間がくると思って来たけど全く逆だ。
この二人だけじゃない。私の隣に座る男はさっきから私の皿にパセリとセロリを置いていく。好き嫌いする子供みたい。横目で睨めば、癖毛の強い頭をこてんと傾げるだけ。なんなのこの人。
ふと長いテーブルの一番奥に座るヴァレンタイン大統領その人へ視線を向ければ、缶の底へ穴を開けてそこからぐびぐびと喉を鳴らしてビールを飲んでいる。丸々としたふくよかな体型と相まって、その奇異な飲み方はただの芸人の一発芸のようにしか見えない。これが我が国を治める権力者の姿なのか。
最低なジョークを交えた下劣な会話、テーブルを囲う奇妙な人間達…あぁ、ほんとにいかれてる。目の前の様々な光景が信じられなくて思わずくらりと眩暈がする。高い賃金目当てで引き受けたりしなきゃ良かった。
異常な彼等に囲まれて一人取り残された私は、まるで別の世界へ引きずりこまれたかのような気分に陥っていた。嗅いだことのない次々運び込まれる豪華な料理や高級ワインの香り、同じテーブルにつく得体の知れない人間達、眩しいシャンデリア、すべてが私を混乱させる。

「聖人の遺体回収の成功を祈ろうではないか。」
こちらの世界へようこそ。
食事会が開かれる際に大統領が言った乾杯の音頭の言葉がまだ耳から離れない。
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