壊れかけの耳小骨がいたいほどにふるえて

*ちょっといかがわしい
「今日一度も連絡くれないから…心配して来ちゃった」
家へ帰ると玄関でしゃがみ込んでいたナマエは口の端だけを持ち上げていかにも卑屈そうに笑う。しかし俺がいつまでたっても無言だったのですぐに泣きそうな顔をする。白いランプに照らされているせいか幾分窶れているようにも見える。人の家にピッキングして入って来たくせにどうしてそんな厚かましい顔ができるんだろうか。
「あ、あれ?わたし、何かおかしいかな?」
嫌わないでって目が訴えてきて、震えた声でそんなことを言うもんだから思わず吹き出しそうになる。独占欲が強い女の癖にナマエは臆病で嫌われるのを人一倍恐れる。いつも俺の顔色を伺いおろおろとしていて挙動不審だ。
正直鬱陶しいと感じることもあるが、それ以上にナマエの狼狽える姿は滑稽で可哀想でなんだか安心して見れるのだ。
自分より下の存在を見て安堵する。浅ましいが人間の当たり前の心理。

無言でナマエを壁に押し付け、手を掴むと面白いほど肩を震わせた。冷凍された魚みたいに冷めた掌は青白く光っている。指先を口元にもっていけば「あ」と短く声をあげた。そろりと中指の爪の間を舐めればとうとう目の前の女はぽろぽろ涙を零す。
「あの、アクセル怒ってる?」
「まぁな」
「ごめん、なさい」
嘘に翻弄されてみっともなく謝るナマエは本当に馬鹿だと思う。馬鹿だが、嗚咽を漏らしながら大人しく指を舐められてる様子は艶めかしい。がりっと絆創膏を巻いた人差し指を噛めば、微かだが嗚咽混じりの嬌声を洩らすものだからナマエの奴は泣きながら密かに感じているんじゃあないかと思う。嫌われたくはないくせに“こういう時”は酷くされると悦ぶ。この女のよく分からないところだ。
「あぁ…アクセル、私のこときらいに、なった?」
「そうかもしれない」
指から口を離して思わせぶりな嘘を吐きながらナマエの閉じられた脚を撫でる。ヒッと引き攣った悲鳴があがる。五月蝿いと短く叱咤して太股を抓り上げたらあまいため息を吐いて身を震わせる。
「お願いお願いお願い。なんでもするから、どうかきらいにならないで…」
「お前はいつもそればっかりだな」
「ご、ごめんなさい、お願い…だから」
ゆるゆると足を開き、女は洟を啜って俺を見上げる。その時確かに泣き濡れた目に期待と喜びが入り混じっているのが分かった。
本当に馬鹿な女。
しらけた笑いを乾いた皮膚に浮かべ「反吐が出るな」とナマエに聞こえるように呟いてから足のあいだへ手を伸ばした。

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