弱者の夜は今日もみじかい

*男主
「そうそう、僕の家で飼ってる…」
あれ?と思った。その先の言葉が出てこない。何を言おうとしたんだっけ。
「なぁに?ナマエ」
隣に腰掛けた大弥ちゃんが僕を覗き込む。大きくてぱっちりした目にはきらきらと星が浮かんでいた。
「ううん、何でもないよ。なにを話そうとしたか忘れちゃった」
台本の台詞がハサミでそこだけ切り取られているみたいな違和感。気のせいだと思うことにした。ここ最近の記憶が虫食いみたいに穴が空いてところどころ無いし、そのせいで学校にも行けずにうちと家族ぐるみで仲が良かった東方の家に置いてもらってお世話になっている。大弥ちゃんと、あとは…。
そこまで考えてまた思い出せない。あんなに良くしてくれた東方家の人たちの名前も顔も真っ黒に塗り潰されて頭の中から消えている。それどころか学校の友人や家族ですら思い出せなくなってきている。何かの病気かと焦る。しかし病院はおろか、この大弥ちゃんの部屋以外の場所がよく思い出せず、外に踏み込むのが恐ろしい。
自分は一体どうしてしまったのだろう。思わず頭を抱え込む。
「ナマエ〜泣いてるのォ?大丈夫よ、だって私がいるじゃない」
「大弥ちゃん」
「忘れちゃったことは忘れたままでいいわよ。単にナマエにとってどうでもいいことだったってことでしょ?…それより今こうして私と“共有”している時間と記憶のほうが大事よ。ネ、そうでしょ?」
優しく諭してくれる大弥ちゃんはまるで光だ。いつも僕の心を癒してくれる。そうだね、と肯けば大弥ちゃんはフフンとふわふわのフードの奥でいたずらっ子みたいに笑った。
「ナマエは優しいわよねェ。ちょ〜っとしたことでも私に負い目引け目を感じてくれるもん」
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