「ディスコ、あなた病気よ」

ビョーキ、というところを強調して言えばディスコの黒い瞳が瞬き、ふるふると頭を小さく振った。私はディスコのごつごつした手に氷を押し当てながらため息を吐いた。

「これで何回目だと思う?」

そう問うても、目の前の彼は首を傾げるだけなので「七回目だよ」と答えを教えてあげた。氷の入った袋をどかして火傷の様子を見ればぶくぶくとした水膨れが顔を出す。皮膚も赤く爛れているところがあるし、病院に行ったほうがいいかもしれない。刺客って医療費免除されたりしないのかな。
とりあえず化膿しないように包帯で覆っておこう。私は傍らに置いた救急箱から包帯を取り出した。


ディスコにはどうしてだか、自分で自分を傷つける癖がある。窓に頭を打ち付けたりとか、カッターナイフで手首を切ったりとか。床用洗剤を飲んだりしたこともある。あとそれから、自分の腕を焼いたり、とか。
前回とその前の前のことから学習したらしい。ライターや煙草では思ったより大きな火傷にはならなくて、アイロンはずっと押し付けていないといけないから面倒だと。
学習したディスコは、私が買ってとっておいたアロマオイルを使った。それを手に垂らして、コンロで炙ったのである。
本人もあまりの熱さに水桶に腕を浸したから、燃え広がって火事になったりはしなかった。
よかった。
普通は怒るところなんだろうけど、私は安心してしまう。いつもそうだ。ディスコが何かする度に彼が無事で良かったと安心して、怒ることなんて忘れてしまう。高かったアロマオイルの空ビンのこととか、焦げたキッチンのマットとかはどうでもよかった。
私がこんなに寛大でいられるのはディスコが目の前で最初の自傷をこじらせた時の言葉を思い出すからだ。

「こうでもしないと、ナマエがいなくなる気がして」

片手に握ったペーパーナイフと血だらけの手首を見せながらぎこちなく微笑むディスコ。すごく可愛かった。
私は彼の自傷癖の理由を知ってしまったから、まるでマリア様になったかのように慈悲深くいられるのだ。


真っ白な包帯を巻き終わり、幾分かふくふくとしたディスコの手を上から両手で包み込んだ。

「こんなことしなくても、私はどこにも行かないわよ」

自分の声が少しだけ震えているのが分かった。口の中が渇いていて、思わず唾を飲み込む。

「大丈夫だからもうしないで」

半分、自分に言い聞かせるように呟いた。ディスコは最初はきょとんとしていたけれど直ぐに私の意図が理解できたようで、こくりと頭を縦に振った。

「もうしない」

大丈夫だから。
私の言葉をオウム返しする。口のはしっこだけで器用にディスコはうすく笑った。



自傷癖
20150905

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