※スカーレット→ファニー前提

「ねぇナマエは私のこと嫌いにならないわよね?カワユイ貴女のこと大好きなんだから貴女だって私のこと大好きでしょう?ね、そうに決まってるわ」

ファーストレディのまくし立てた台詞がいったいどんな冗談なのだろうと分かりかねたので首を傾げていた。だが額に銃を突きつけられてしまったので、私は口角を無理やり引き上げて笑みのようなものを作って頷いた。「そうそう、そうよね!」とファーストレディは満足げに微笑んでやっと銃口を向けるのをやめてくれた。ぷちぷちっと音がして、反対の手が髪を毟る。痛くないのだろうかと思いながらはらはらと落ちる髪の毛を見る。絨毯にはうっすらと黒い山ができている。

夫人は女の子が好きだ。
この事実は官邸の中でも限られた人間しかしらない。若くて器量良しのメイドはだいたい働いて数日で「食われる」という噂を聞いたことがある。
幸い私はまだ肉体関係までは至っていないが、決まって大統領が不在の時はこうして女の子同士のお喋りに付き合わされる。ファーストレディはいつも私のことが好きでしょ?愛してるでしょ?と繰り返し質問をする。そして髪の毛を引き抜く。
初めはその行動の意味が分からなかったのだが、最近になって彼女が私を誰かに見立てて話をしているのではないかと分かった。

「ナマエ、貴女のお目目ってすごく綺麗ね。睫毛が長くてぱっちりしてて…」

あの人の若い時にそっくり。
泣いているような笑っているような声で夫人は呟いた。この人が見ているのは私ではないな、とその時分かった。そして恐らく彼女が言う「あの人」は大統領なのではないかと直感した。

大統領夫妻の護衛をしたことは何度かある。夫妻は公務の時はそれはそれは仲睦まじい二人に思える。しかしそれは表向きの顔で、仲はうまくいっていないと夫人は零していた。
大統領はきっと意図的に妻を遠ざけているのだろう。ファーストレディはスタンド使いではないし、スティールボールランレースの裏に秘められた聖なる遺体の回収のことも知らない。一般人であるファーストレディを巻き込むわけにはいかないと考えるのは当たり前だろう。
だが逆にそれが夫人にとっては辛いのだ。だからメイドの女性や私に偽物の愛を求めて、埋め合わせをしようとしている。そんなこと、虚しいだけだろうに。


ぷちぷちとまた夫人は私の前で髪を引き抜き始めた。夫人の後頭部は硬貨くらいの大きさほどだが、髪が薄れつつある。髪は無理やり引き抜くとその分毛根が機能しなくなり、髪が生えなくなるという。
私は夫人の髪の落ちていく様を見ながらいつも哀愁を感じる。彼女のこの癖はいつ治るのか。私を縛り付けて愛を吐けと脅す奇行はいつ終わるのか。

「ねぇナマエ、愛してる?」

遺体回収の成功、夫妻の平穏な生活が戻ることを私は願う。



抜毛症
20150921

「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -