ホーム・インディゴ《ひさかたの日々》

不動産屋さんに聞いたところ、どうやら私の住んでいるあのアパートは前から幽霊が出ることで有名だったらしい。それでなかなか買い手がつかなかったとか。家賃が安すぎるのもそのせいらしい。
家を買う時に言ってくれればいいのに…。

それとイタリアの有名な建築家が設計したらしく、家の材料もその建築家のこだわりでイタリアから取り寄せたとか。
もしかしてこれがイタリア人のリゾットさん達が日本に化けて出ることに何か関係あるのかもしれない。そのへんは後々探っていくとしよう…。
それより今はバイトをしてお金を貯めて、新しい入居先を探さないと。

「杏ちゃんなんだか最近精が出てるわねぇ」
「そうですか?」
「なんか張り切ってる感じ〜〜」

バイト先のスーパーのおばさん達にそんなことを言われた。幽霊がいるアパートから出るために仕事に打ち込んでます!…とは言えるはずもなく苦笑いで受け流した。







バイトが終わり、家に帰った頃にはもう10時を過ぎていた。アパートは外灯がぼんやり点いていてサーモンピンクのモルタル壁が目立つ。可愛いデザインだし外観だけなら素敵な建物だ。元々ここを選んだのは家賃が安いということもあるが、充分すぎるこのオシャレ感にも心奪われたからで。

幽霊が出るってことを除けば完璧なのになぁ。
そう思いながら玄関のカギをガチャガチャやってるとふと気配がした。つっと隣を見れば、赤い短髪に剃り込みをした厳つい感じの格好のお兄さんが立っていた。脚が長くて私よりずっと身長が高い。
けれど顔から身体にかけて皮膚が焼け爛れ、痛々しいことになっているから多分幽霊の一人だろう。一体何人憑いているんだろうこのお家は。

「……こんばんは。あの、中入ります?外寒くないですか?」
「……お嬢ちゃん夜中に幽霊に会ってその反応かよ。もうちょっとキャーとか言うもんじゃねぇのかそこは」
「なんかもう慣れてきちゃったので。あぁ、リゾットさんから聞いてるかもしれないですけど私、柴田杏です」
「ズレてんなぁ……暗殺チームのホルマジオだ。まぁ、これから宜しくな」

ホルマジオさんは強面な見た目に反してとても快活な印象を受けた。きっと日本の高校に通っていたら昔は爽やかスポーツ少年でしたってタイプだ。こういう人が一番女性にモテるんですよねぇ…。


ホルマジオさんを中へ入れて、ただいまーと声をかければドタドタと廊下を駆けてくるような足音。ふっと前を見ると長い金髪で目だけを覆面で覆った男の人がいた。強面ホルマジオさんとはまた違った感じの綺麗めなイケメンさんだ。
…ただし上半身右半分だけ肌を露出したトンデモ服を着ている。リゾットさんの服装もなかなかオシャレ上級者だったけど、この人のファッションもすごい個性的だ。

「へぇ〜〜!アンタが柴田杏ってバンビーナ?」
「はい、そうですけど…」
「やっぱりジャポネーゼの女性って童顔で小さくてかわいいんだなぁ」
「えぇ?」

ぽんぽんと次から次へと褒められそんなに至近距離で見られると照れてしまう。わ、悪い気はしないけど…!

「だいぶ若く見えるけど君いくつ?処女膜まだ破られてない?」

前言撤回。いきなり爆弾発言を落とされてサーっと血の気が引いた。

「……イタリアの方って皆こんなに…その、積極的なんですか?」
「安心しろこんなにイカれてるのはイタリアでもメローネくらいだ」
「わぁホルマジオひでぇ」

私とホルマジオさんにドン引きされてるのに金髪の人…メローネさんはケラケラと愉快そうに笑っている。慌てて「変態」と言ってしまうのを飲み込んだがさっき発言からして……やっぱり危ない人かもしれない。


「ジャポネーゼの女を一度抱いてみたかったけど死んだこの身じゃ、その髪にも触れられないんだよなぁ!あぁ悔しいなぁ!欲求不満だ!なぁギアッチョ?」

「うるっせェンだよ!お前は勝手に一人で処理してろ!!」

大声と共にいきなりメローネさんの隣に現れた幽霊に思わず肩が跳ねる。ビビットトーンの青くてくせっ毛の髪に赤いフレームの派手な眼鏡。服装は白いシャツに黒いズボンと大人しめだが、大声で叫ぶ度に鉄の杭のようなものが突き刺さった首から鮮血がだらだらと流れ出ている様は壮絶だ。
痛そうだなぁと思いながらも恐る恐る見てしまう。ここの幽霊達に出会ってから(最初はもちろんビビっていたが)多少グロテスクなものにも耐性がついた気がする。本当は慣れるべきではないんだろうけど…。

「だいたいこんなガキみてぇな小娘、女の域に入らねェだろうがよ!」

ぐさっ。ギアッチョという名前らしい幽霊さんに声高々にそう言われてしまい、軽くショック。あぁでも確かにイタリア人から見たら小さくて平たい顔族の日本人なんて子供みたいなものなのかも…。

「おいお前ッ」
「は、はい!」
「リーダーからの命令だからしょうがなく認めてるがな、くれぐれも変な真似すんじゃねェぞコラ!!」

ギロっと睨みつけられて身を竦める。この人なんか怒りっぽくてこっわいなぁ…。
いや、そもそも皆ギャングなんだからこういう感じで威圧するのが普通なのかな?日本でいうヤクザみたいなものなんだし「なめられたら終わり」みたいな気風があるのかもしれない。そうだ、今度ゴッドファーザーでも観て勉強しようそうしよう。



「えっと…とにかく三人とも宜しくお願いします」

軽くお辞儀をしたらホルマジオさんに「やっぱり幽霊に対してその反応ズレてるぜ」と苦笑いされた。メローネさんとギアッチョさんも「なんだこいつ」みたいな顔をしてぽかんとしていた。
どう思われたかは分からないけどとにかく一つだけ言いたい。
疲れたので着替えて寝てもいいでしょうか。




20150507

prev next

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -