饐えたにおいの紅水母 | ナノ
人間にすら乏しい
「リーダーには目標の暗殺だけって言われてたんだが、皆殺しに変更だな」
「誰のせいだと思ってるの?貴方の派手な爆破のせいよ」

顔を顰めるデイダラと痘痕の周りには屈強な男どもが武器を構えていた。三十人、いや六十人くらいだろうか。小さな盗賊団と話に聞いていたが人数が予想以上に多い。
その輪の中で一際体格が良く、厳しい顔つきの男がこの賊の首領だった。本来ならば此奴だけ殺せば任務は達成される筈であった。
しかしアジトに侵入する際にデイダラが先走り、起爆粘土で奇襲を仕掛けたことで二人はあっという間に取り囲まれてしまったのだ。

「どうするかね…うん」

両手に付いた口に粘土を食わせながらデイダラはどう出るか考えていると、隣の痘痕が肘で脇腹をつついてきた。
よく見ると口で手袋の指先をくわえて外している。

「坊や、離れてなさい」
「は?」

言っている意味が分からなかった。
瞬間、隙を突いた盗賊の頭領が痘痕の腕を掴み上げた。小柄な痘痕の体は地面から足が浮くほど引っ張り上げられる。

「ナメられたもんだぜ!こんなチビのお嬢ちゃんにこのオレ様の暗殺を任せるなんてよ!!」

取り囲んでいる盗賊達からどっと笑いが起きた。デイダラはその下卑た笑い声と隙を突かれて安々と捕らえられた痘痕に舌打ちをした。
しかし当の痘痕のほうはだらんと脱力して人形のようにぶら下がっているままだった。少しの抵抗の様子さえ見せない。
ただその両目だけは自分を引っ張り上げている男の顔をじっと睨みつけていた。
それが気に入らなかったのか、笑うのをやめて頭領は痘痕をのぞき込んだ。


「あぁ?なんだァ?この餓鬼。嫌な目でオレ様を睨みつけ……っ!?」

瞬間、男はいきなり焼けた鉄にでも触れたように痘痕を放り投げた。

「ぎゃあ」とも「ぐああ」ともつかない悲鳴をあげながら男は手を押さえて苦しんでいた。それは先ほどまで痘痕の腕を掴みあげていた方の手である。今まさにその掌は何故か肌の皮膚の色が黒く変色し、怪しげな煙が細く噴き出している。

今の一瞬、何が起こった?

デイダラは悶え苦しむ頭領を呆然と見ているしかなかった。デイダラだけでなく、さっきまで笑っていた盗賊達もただ目の前の光景に目を丸くしている。
痘痕は放り出されて地面に叩きつけられたが、なに食わぬ顔で身を起こした。

「私の手に気安く触ったからよ」

汚れるじゃないの。
片方の腕の長手袋も外しながら小さな手を見せた。白くてふくふくとしたなんの変哲もない子供の掌。
しかしそれに触れた男の手は見る見るうちに激痛を起こしながら変色していっている。

何か特殊な毒だろうかとデイダラは最初に思った。相方のサソリがよく傀儡に毒を仕込んで攻撃するのだが、それにやられた相手と症状が似ているような気がしたからだ。
しかし、気になったのは変色していく男の腕から放たれた鼻をつくような臭いだった。酸っぱいような不快なその臭いには覚えがあった。
そう、腐敗臭である。


「気づいたようね丁髷坊や。これが私の使う禁術の正体…触れたものを全て腐らす能力」

デイダラが感づいたのに気づき、あどけない少女の顔で薄く笑う女。

「お前、とんだバケモノだなババア…」

まさかの正体に総毛立ちながら苦笑いを零す。

「手に口が付いてる貴方に言われたくないわ。気持ち悪い」
「ぶっ殺すぞ、うん」

二人が言い争いをしてるうちに頭領の男のほうは腕から更に腐蝕が始まっていて、首の辺りまで黒く変色している。しかし悲鳴はもう聞こえず白目を剥いて絶命していた。きっと内臓が幾つか腐敗して壊れたからだろう。生きていられる筈がない。


「さ、早く片付けましょう」
「お前に指示される覚えは無ェよ、うん!」

デイダラが腐爛死体を足で蹴り転がすと同時に起爆粘土の鳥が放たれた。

本日二度目の爆発音が腐臭漂う中響きわたった。



20150409
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