饐えたにおいの紅水母 | ナノ
混沌がはじけて、にやり
見た目だけ幼女という奇異な女、痘痕。暁に加わるといってもリーダーのペインはまだ彼女を認めたわけではなかった。
後から聞いた話によると、痘痕はいきなり雨隠れのペインの元にたった一人で訪問してきたらしい。そして自分から暁に加えてくれと申し出たという。勿論ペインは断固拒否をし、そこで一戦交えた。その時痘痕は取り押さえられたものの、戦闘中に出した異能はなかなかのものだったという。
ペインは痘痕の力をこのまま放っておくことを危惧し、同時に見逃すのは惜しいと考えた。
そこで悩んだ末に出した決断は、一定期間暁にとって危険分子ではないか目付け役を付けて監視を行い、痘痕を引き入れるということであった。


「で、なんでオイラがその目付け役を任されなきゃなんねぇんだよ?」

突然ペインに呼び出されたと思えば、痘痕の監視をやれと命令されたデイダラはあからさまに顔を顰めた。

「そういうのはゼツに任せたら良いじゃねぇか、うん」
「あいつはまた別件で探りを入れさせているんでな、今は手が離せない」
「だからって何でわざわざオイラなんだよ。オイラだって資金集めだの雇われ戦争だのあって暇じゃねぇんだぞ…うん」
「痘痕をお前の任務に同行させるんだ」
「はぁ!?」

デイダラは思わず素っ頓狂な声をあげた。怪しげなあの痘痕を軟禁するでもなく、自由に泳がせるとはこれ如何に。

「痘痕は監視下に置くとともにその能力がどれほどのものか、もっと詳しく調べる必要がある。それには実戦が一番だ」
「……つまりオイラはあの餓鬼と任務をやって、それを報告しろってことか?」
「そうだ」

相手が頷くのを見て、デイダラは額に手をやり呆れたように大きなため息を吐いた。

「……サソリの旦那も了承済みなのかよ?」
「デイダラが面倒を見るなら俺には関係ない、と」
「あのクソオヤジ…」

デイダラは相方の傀儡師の憎たらしい顔を思い浮かべながら悪態をついた。





痘痕は任務のある時以外はアジトに軟禁されている。ただし決して環境は劣悪なものではなく、照明が備え付けられているため室内は明るい上に簡易ベッドやユニットバスなど生活に最低限必要な家具もあった。
といっても部屋の警備にはぬかりはない。窓や扉には鉄格子がはめられ、もし壊そうとするならば術式が発動して起爆札が爆発する仕掛けがされている。

痘痕はその牢の中で退屈そうにベッドに横たわり、本をめくっていた。勿論私物ではなく、アジトにあったものを適当にペインから支給されたのだ。

「ってわけで…オイラが今日から暫くお前の子守役だからな、うん」
「餓鬼扱いしないでって言ったでしょう、丁髷坊や」
「じゃあまずその坊やって呼ぶのやめろクソ餓鬼」
「貴方が先にやめたらね」

本から顔を上げもしない上に態度も生意気な痘痕に思わず目の前にあった鉄格子を怒りで握り締める。

「じゃあお前いくつなんだよ?うん?」
「そうね…ここを抜けたっていう大蛇丸と同い年くらいかしら」
「ババアじゃねぇか…うん」
「あら、年上の人間には敬意を払えってママから習わなかったの?」
「……」

ああ言えばこういうとはこのことだ。こんな減らず口の女とこれから行動を共にしなければならないことにデイダラは既にむかついていた。元々短気な性質だからかもしれない。
次に何か言ったらこの手で爆殺してやろうかと頭の片隅で考えたが、ペインからは「殺すのは痘痕が不審な行動をとった時だけだ」ときつく命令されていた。逆らえば面倒なことになるのは自分である。デイダラは大人しく爆殺という考えを頭から消した。


「つーか、お前はなんでそんな餓鬼の姿なんだよ?変化の術か何かか?」

さりげなく話題を変えて問いかける。
ペインから探りを入れろと言われていたし、実は痘痕の容姿の謎については純粋に少し興味があった。
しばらくの沈黙の後、痘痕はやっと本から目を上げてデイダラを見た。頭を動かしたのでクセのついた髪が帯のように広がる。おさげにしていた時は分からなかったが、案外長い。そして50過ぎの女の髪とは思えないほど艶めいていた。

「術の副作用によるホルモン異常よ」
「……副作用?」
「霧隠れに伝わる禁術の一つよ。私は十歳の子供のまま体の成長が止まっているの」

そう言いながら手袋をはめた掌をひらひらと見せる。薄っぺらくて小さくて頼りなさげな手でだとデイダラは思った。同時に副作用が出るほどなのだからその禁術とやらはよほど強力なものに違いない。

「なんで副作用があるのを知りながらそんな術使おうと思ったんだよ…うん?」

続けて聞いたが、痘痕それ以上は答えなかった。薄い唇を引き結び、再び視線は本へ移ってしまった。
お喋りかと思ったら石のように黙る。やっぱり良く分からない奴だとデイダラは思った。
鉄格子の中でうずくまる小さな女をしばらく見やり、デイダラは牢獄を離れた。



20150401
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