次の日、ユウナは珍しく朝早くから私の家に来ていた。

「いつも見てたって此処から?」
『うん。・・・ほら』

私が指を指した方向には、あの小さなバス停とテニスバッグを背負ったあの三人。
窓は開けられないため、声は聞こえない。

『テニス・・・上手いのかな?』
「・・・・・・丸井がどんな風に学校で過ごしてるかみたい?」
『え?』
「もっと知りたいでしょ?こんなところから見てるだけじゃなくて」
『う、うん』
「よぉし!私にまっかせなさい!」

そう言ってユウナは私のベッドに置いてあった鞄を持って行ってしまった。

何する気なんだろう・・・───。

結局その後、ユウナは家に来なかった。
ユウナが家にやってきたのは次の日の夜8時だった。

「はい、これ」
『え、何これ?』

ユウナはビデオカメラを差し出してきた。

「撮ってきたよ」
『撮ってきた?』
「そ。丸井ブン太がどんな人なのか知りたかったんでしょ?」

まさか、いつもサボっている学校に行ってわざわざ撮ってきたのだろうか。

「とりあえず見てみなよ」
『う、うん』

早速部屋のテレビにビデオカメラを繋げてみた。
ユウナはテレビには目もくれず、ベッド脇に置いてある雑誌を勝手に広げて読み出した。

ビデオには数学の授業を受けているらしい彼が映っている。
このアングルからして、こっそり廊下から撮ったのだろうか・・・。
これってバレたらまずいんじゃ・・・・・・。

何やら頭を抱えている彼。
先程からずっと下を向いて頭を抱えている。

「眠ってる・・・?」
『ううん、なんか頭悪いみたい』

授業の風景が終了し、休み時間の廊下らしい場面に切り替わった。

「へー・・・、いい学校だね」
『そっか、学校の中ちゃんと見るの初めてだったね』
「うん、みんな楽しそう!」

廊下で楽しそうに会話をしている生徒たちが映る。
その中に赤髪の彼がいた。
銀髪の彼とくせっ毛の彼もいる。

「銀髪のやつが仁王雅治、ワカ・・・くせっ毛のやつが切原赤也。三人共テニス部で、レギュラーね。仁王と丸井は同じクラスで、切原は後輩。まぁ大抵はこの三人でつるんでるかなー」
『そうなんだ!』
「・・・名前がそんな風に笑うなんて珍しいね」
『え・・・、笑ってた?』
「うん!名前は笑ってたほうがいいよ」

親友にそう言われるとなんとなく照れくさい。

ビデオの画面が外へと切り替わる。
テニスコートで練習に励む部員や練習を見に来ている女の子たちが沢山映る。

「これ撮るの大変だったんだよね。ファンばっかで全然映らないんだもん」
『ホントにありがとね』
「いいよいいよ、気にしないで。ほら、丸井の練習シーン!」

彼が外人みたいな人と打ち合っているシーンだ。

「相手はジャッカル桑原っていって、丸井のダブルスペアだよ」
『みんなすごい上手!』

しばらくビデオを見続け、ユウナは明日の終業式に出ると言って帰った。
明日から夏休みらしい。
ビデオカメラはしばらく預けると言っていた。
見るのはこれで三度目。

彼は夏休みも練習で忙しいのだろうか・・・。


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