「身体に異常は無いですよ。手のかぶれは薬を出しておきますね。服はその時のまま?」
金井総合病院の診察室───。
病院はやっぱり嫌いだ。
先生の質問に頷く。
「家に帰ったらちゃんと着替えてくださいね」
診察室を出て廊下を歩いていると、向こうから車イスの女の人がやってきた。
きっと彼女は私と同じ病気だ。
顔の皮膚がボロボロで手足は痙攣してしまっている。
きっと動かせないのだろう。
───私も将来、ああなってしまう・・・。
車に乗り、沈黙が流れる。
「何なんだ?今朝の男は?」
父親が少し怒った口調で訊いてくる。
両親にはブン太のことは話したくない・・・・・・。
今は彼の話なんてしたくない・・・──。
「名前の、好きな人?」
今度は母親が訊いてくる。
話したくなんてないのに・・・。
『・・・・・・悪い?』
父親のほうを睨みつけながら言った。
『でも、もうおしまい』
「え?」
『・・・・・・病気なんて関係無いって思おうとしたけど、やっぱり私が人を好きになるなんて無理なんだよね』
「そんな事言わないで」
『病気の彼女だなんて嫌だろうし・・・』
「お前のは病気じゃなくて個性だろ」
『・・・・・・向こうには将来があるもの』
「お前にだって将来がある」
『どうだか』
「なんだと?」
『私の病気は治らないよ』
「絶対治る!」
『じゃあ私の目を見て言ってよ!もう騙されないよ!いつまでも子供じゃないんだから!この前病院で先生が治療法が無いって言ってたの聞こえたんだから!』
こんなに声を荒げたのは初めてだった。
それから車内にまた沈黙が流れる。
彼とはもう会わないほうがいい───。
そう思うのに、今すぐ彼に会いたい・・・──。
赤髪の彼の笑顔が頭に焼き付いて離れない───。