一緒に帰ろう
6月中旬。
もうすぐで夏がくるというのに最近は雨ばかりで少し肌寒い。
いつも遅刻したり授業をサボったりしているせいで私の単位が非常にマズい。
なんて話を担任からの電話で聞いた。
特にやりたいことなんて無いけれど、卒業できないのは非常に困る・・・・・・。
だから今日は珍しく朝早くに登校したというのに、傘を忘れてきてしまった。
これだから嫌なんだ、朝から登校するのは・・・・・・。
前にも一度こんなことがあった気がする。
あの日も珍しく朝から登校し、1時限目の授業の準備をしようと机の中に手を入れた。
───無い。
目当ての教科書が無いのだ。
机の中をもうもう一度確認し、鞄の中も探してみた。
───やっぱり見つからない・・・。
もしかしたらこの前持ち帰ってそのまま部屋の机に置いたままかもしれない。
結局その日は1時限目をサボってしまった。
朝から登校したのに、とんだ失態だった。
ちゃんと確認しておけばよかった。
ニュースでも午後からは雨だといっていたのに。
晴れるまで待つか。
そう思って下駄箱に寄りかかって携帯を開いた。
「傘、忘れたんか?」
振り返ると見慣れた銀髪がこちらを見ていた。
こいつは会う度に彼女が変わってる。
2週間前に別れたと噂を耳にしたが、どうやらまた違う子と付き合ってるらしい。
「うん、雨だって分かってたんだけどなー」
「晴れるまで待つ気なんか?」
「こんなに降ってんなら仕方ないよ」
仁王から携帯へ目線を戻す。
「ほれ」
「・・・?」
もう一度仁王のほうを向くと、彼は自分の傘を差し出してきた。
「なに?これ・・・、」
「使いんしゃい」
「仁王が濡れるよ?」
「別にいいぜよ、ほれ」
そう言って私に傘を押しつけてきた。
「それとも、一緒に帰るか?どうせ家も隣同士じゃき」
コイツは女癖は悪いけれど、すごく優しいやつだと思う。
子供の頃からそういうところは変わらない。
「・・・・・・彼女は?」
「もう別れた」
あっさりと答えた。
「だから、ほれ、一緒に帰るぜよ」
仁王は私の返事を待たずに自分で押し付けた傘を広げて外に出た。
この機会を逃したらまた待っていなければいけない訳で・・・。
仕方なく仁王の隣に立って歩き出す。
「この調子じゃと明日も雨かのー」
「・・・かもねー」
家に着くまで会話はほとんど無かった。
小さい頃から変わらない。
それが、すごく落ち着く。
この時間は嫌いじゃない───。
「じゃあの」
「うん、ありがとね」
「いいんじゃよ」
私は仁王に軽く手を振って家に入った。
たまにはこんな日もいいかもしれない・・・・・・。
明日はちゃんと傘持っていこう。
仁王は──、
雅治は───忘れたりしないだろうな・・・・・・。
2012.11.10