01


「茨、ちょっとパパと出かけてくるね」

「なになに、デート?」

「そうよ、そこのスーパーまで」

「近っ」

「ふふふ。だから歩いて行ってくるわ」


ナチュラルにウインクをかましちゃうこの人はあたしの母。娘のあたしが言うのもあれだが、美人だ。
イギリス人で、髪の茶色さがばっちりあたしに遺伝している。


「あ、パパ!」

「ん、なんだ?」


背が高くて、派手な色をした短髪で、ちょっと見た目がやんちゃ坊主なこの今にもキスしてきそうな人が父。
悔しいが格好いいこの人は日本人で、そのお陰かあたしの目は焦げ茶色だ。


「あたしアイス食べたい!」

「じゃあママとソフトクリーム食べてくるか」

「え、ずるいっ!」

「ははは、冗談だ」


頭をぐりぐり撫で回されて、あたしの髪はぐちゃぐちゃだ。


「じゃ、行ってくるな」


油断した隙におでこにキスされる。
ママは笑ってて、それを見たパパはママにもキスをする。娘が見ていますよ。


ーーーーー


2人が買い物に出掛けて2時間程度。
いい加減帰ってくるだろう。
そこまで大きなスーパーじゃないけれど、のんびり買い物するから遅い。
…迎えに行こうかな、暇だし。


「欲しい本もあるし!」


もしかしたら買ってくれるかも、という期待を胸に小さなバックを持って行くぞ!と思った時、救急車の音がした。
誰か事故起こしたのかな、なんて呑気にスーパーへ向かうと、スーパーの前の道の一部が真っ赤に染まっていた。


「う、わ…」


予想以上の事故らしい。
ふと目に入ってきたのは見覚えのある女物のハンドバック。
背中がぞわぞわなって変な汗が出てくる。
いやいや、他にも持ってる人いるでしょ。
でも、でも…あそこに着いてるあのキーホルダーはあたしがプレゼントしたやつ。


「…っママ、パパ!」


救急車へ走り寄ると影にもう一台救急車があって、真っ赤なパパとママが居た。
もうひとつ目に入ったのは、真っ赤なトラック。
何がなんだかわからなくなって、あたしの目の前は真っ暗になっていった。


ーーーーー


起きた途端に白衣が見えた。
まだ頭がぼやぼやするが、さっきのこともはっきり思い出したし、ここが病院であることも理解した。


「大丈夫かい?見えるね?」

「…はい」


一瞬馬鹿にしているのかと思ったけど、倒れたことを思い出して文句は言わなかった。


「目覚めてすぐで悪いんだがね、」


あ、嫌な予感がする。
嫌だ、聞きたくない。
やめて喋らないで。


「君の御両親なんだけど、」


やめてやめてやめて…!


「亡くなったんだ」


ふっと意識が遠退きそうになるのを必死でこらえ、言葉の意味を理解する。
突然すぎて、涙も出ない。

ぼうっとした頭のまま永遠の眠りについたママとパパに会いに行った。
隣り合ったベッドの上で、2人は手を繋いでいた。パパが最期に力を振り絞ったらしい。


「…2人、らしいなぁ…」


その後のことはあやふやだ。
どう帰ったのかも、わからない。


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