12
力の解放をする、と言うことで教室に戻された3人。担任であるシュタインが居ないため黒龍組は自由行動中である。3人は適当な席に座り、ぼーっとしている。
「…力の解放ってなんだよー。なんか痛そうだよなあ」
ファングが耳も尾も下げて問う。それを見たサングェはため息をつき、ズレた眼鏡を直しながら呆れた視線を送る。
「痛いかどうかは知らないけど、特別な技だって授業でやっただろ」
「この学校で出来るのはシュタイン先生とエンフェルメラ先生と、学園長だけだって言ってたじゃない」
「えー、言ってねーよ」
大抵授業中は寝ているファングは、教科書に乗っていること以外知らないのだ。つまり「俺が言ったこともテストに出すからな」なんて言われたら、2人に土下座してでも聞かないと点数がとれないのだ。 聞いてねー、と言いながら机に突っ伏して唸りだすファング。それに対して狐金が軽く頭を叩く。
「ファング、あなたが唸ったら仲間の狼が集まってきちゃうじゃないのよ」
「ごめんなさい」
会話の続く2人をよそに、サングェは窓の外を眺めながら若干暗い顔をする。
「どしたサングェ」
「嫌なカンが当たったな、って」
「黒の夫人か」
こくんと頷くサングェの表情は子どもが拗ねているようで、2人は思わず苦笑してしまう。
「きっと偵察だけよ、面倒事は回ってこないわ」
「ブイオがそれだけで終わらせてくれると思うか?違反者を狩ってこい、ぐらいは言うに決まってる」
どんどん機嫌の悪くなっていくサングェに狐金は肩をすくめ、ファングにバトンタッチ。
「茨次第じゃね?」
「どういうことだ?」
「茨がもし一緒なら流石の学園長でも言わないだろ、狩ってこいなんて」
俺頭イイ!とはしゃぐファングに、サングェは絶対零度の視線を浴びせる。
「今日力を解放したばかりの子猫を連れて行くつもりか?」
ひくりと動きを止め、また机に突っ伏す。精神的にやられてしまったらしい。
「サングェ、気が立ちすぎよ」
「…わかってるよ」
少しきつい声で狐金が窘めると、反論出来ないサングェは視線を泳がせて、片手で頬杖をつく。
「はやく戻ってこねーかなー」
涙混じりのファングの願いは、誰に届くでもなく虚しく消えた。
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