10
力の解放
魔力のかけら
今まで普通の生活をおくっていたあたしには聞いたことのない単語とクスクスという笑い声が頭をぐるぐる回っている。
「茨ちゃん」
落ち着いた声が脳に響いて、勢いよく顔をあげると、さっきより近くに学園長がいた。そしてあたしのメッシュを入れてある一束の髪をさらさら落としながら微笑んだ。とはいえ見えているのは口元だけだが。
「リラックスして。深呼吸だよ」
ゆっくりと息を吸い込み、長く吐き出す。学園長の瞳はどうやら真剣な瞳をしているようだ。サングラス越しに見つめると頭を優しく撫でられた。なんだかパパの手に似てるな、なんて思うと涙があふれそうだった。
「茨ちゃんは残ってね。3人は放課後またおいで。その時詳しく話すから」
「はい。じゃあまた後で」
サングェがクールに言うと2人を引き連れて教室に戻ってしまった。うー…少し寂しいのは仕方がないと思う。
「そうだ茨ちゃん。友だち出来た?」
「はい、出来ました。まだ少ないですが」
いつの間にかソファに座っていた学園長が問う。すごい、革張り…!そういえばこの部屋は黒を基調にしているみたいだ。このソファももちろん黒い。机も椅子もそれから小物も全部黒い。でも紫色もちらちら見える。学園長の爪も紫色だ。
「そっか。今任務で居ない生徒もいるけどそのうち会えるからね」
「どんな方ですか?」
「雪女と雪鬼の仲良しグループ」
雪鬼…頭の中で検索すると、結構早くどんな種族かが出てきた。
「会ってみたいなー」
「…茨ちゃんはどのくらいの種族を知ってるの?」
笑っているけど笑ってない。 でも怒っているわけでもない。
「わかりません」
「そう。でもかなり知っていそうだよね。今後が楽しみだ」
そう言って指をパチンと鳴らすと、京と東がふわふわ飛んできてあたしを引っ張った。行き先は学園長の座っていたソファ。その学園長は既に奥の部屋へ向かって歩いていた。長い、黒いマントのようなコートの裾がひらひら揺れていた。
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