08
学園長といわれて、立派な髭をたくわえた体格のいいおじさんを思い浮かべるのは、あたしだけじゃないはずだ。一体ここの学園長はどんな人だろう。
「すてきな人よ」
ふんわり笑って狐金が教えてくれた。するとサングェが嫌そうにこっちを見た。え、変なこと言ってないのに。
「なによサングェ、良い方じゃない」
「…ただの変態だろ」
サングェと学園長の間で何かあったのかな?そうじゃないとこんなに嫌がらないと思うんだけど…
「あの、なんかあったの?」
「学園長はサングェの兄貴なんだよ」
「お兄さんっ!?」
衝撃的な事実を突きつけられて(少し大袈裟か)あわあわしてしまう。そしたらサングェに冷たい目で見られた。そんなに嫌なのかなぁ。
「そんな顔すんなよー」
ガッと肩を組まれよろけるサングェ。でも嫌ではないみたいで、ふりほどいたり、蹴りをいれたりはしなかった。
「てかよー、今回の任務ってなんだろ」
「最近噂がよく聞こえてるのは黒の婦人よね。狩ってこいとか言われたら嫌だわ」
ほぅ…と口元を隠しながらため息をつく。黒の婦人、か。小さな頃、母との会話に出てきた妖精のひとつ。妖精の存在を信じていたとはいえ、どこか物語のように考えていた。今みたいに実在する者として、会話の中に出てくると少し違和感がある。そうだよ、ここはヴァンパイアも妖精も、魔法使いもいる世界なんだ。
「茨、ついたぞ」
サングェに声をかけられるまで、つい考え込んでしまっていた。あたしに声をかけてすぐ、サングェは美しい装飾が施された扉をノックした。
「黒龍組サングェ、ファング、狐金、茨、只今到着しました」
あれ、さっきのサングェの声じゃない。それから外国語が重なって聞こえた。 それから、クスクスと笑い声がする。でもみんなは特に不思議そうにしてない。でもサングェは少しだけ嫌そうな顔をしている。そんなに嫌か。そんなことを考えていると自動的に目の前の扉が開き、仄かに甘い香りのする薄暗い部屋へ誘(いざな)われる。全員が部屋にはいるとまた自動で扉が閉まる。正直ひやっとした。
「ようこそ茨ちゃん」
心地の良い、少しだけサングェに似た、でもサングェより低い声があたしを呼んで、静かにその姿を表した。
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