07


そろそろ入ろう、というファングの声に賛同し、あたしたちは席に着いた。ちなみに席は自由らしい。すると、前に座っていたかわいらしい猫耳の女の子がこちらを向いた。


「おはよう、みんな」

「よー!」

「おはよう、キトゥン」


2人とあいさつをした後、あたしの目をじっと見つめるキトゥン。


「茨ちゃん、ミストさんの娘だって噂、本当?」

「へ?あぁ、確かにママの名前はミストだけど…
(…うわさ?)」

「あの魔女のミストさんの?」

「そうらしいよ。あぁ、ママの弟さんはマイストリー」


叔父さんの名前を出すと、キトゥンはもともと大きな目をさらに大きくさせていた。


「茨ちゃん、すごいんだ。だからこのクラスなのね」


柔らかく笑った彼女につられて笑い返したが、実際のところよく理解していない。ママと叔父さんがどうかしたのかな…?


「あ、呼ばれたから行くね!またあとでねー」


手を振ってほかの友達のところに駆けていく姿を見届けてから、あたしは小さく息をついた。


「茨、さっきの話、本当?」

「え?うん、そうだよ。
でもなんであんなに驚いていたのかは理解してません隊長」

「誰が隊長よ。
…もし本当なら、あなたから魔力が感じられないのが余計におかしいわね。あの大魔法使いの血族が、たとえ人間と交わったとしてもあり得ないわ」

「ミストもマイストリーもこの学園じゃ生ける伝説なんだぜ。
史上最も優秀な生徒としてな」


ほかにも理由はあるけど、といたずらっ子のように笑うファングに、なおさらわからなくなる。

あたしってなんなのよ。

そのとき、すこし後ろからサングェがあたしのことを見ていたなんて、知るはずもなかった。


―――――


キトゥンに話しかけられてから、あたしは暫くの間ぼーっとしていた。とくにする事もないし、強いて言うなら狐金と2、3言葉を交わすだけだ。たぶん暇だったんだろうファングは、気持ちよさそうに睡眠を貪っている。


ポーン…
「?」


伝言を知らせる音が聞こえ、ざわついていた教室が静かになる。そして聞こえてきたのは我らが担任のシュタイン先生の声だった。


『今から名前を呼ばれる者、至急学園長室へ。サングェ、ファング、狐金、茨。もう一度繰り返す、』

「げ、本当に呼ばれた」

「あら、どういうこと?」

「今朝シュタイン先生に呼び出されること予告されてたんだよね」


ふふふ、と上品に笑った狐金。可愛い。


「あ、ファング起こさなくちゃ…。エフ!任務よ!」

「…エフ?」


ファングを揺すり、起こす狐金に、あたしはそっと聞いてみた。


「任務中の俺たちの中での呼び名だ」


そして返ってきたのは心地いい低音。


「(心地いいっ!?どうしたあたし!)
…っそ、それ、どういう意味?」

「名前で呼んだら長いだろ。だから俺たちの班ではイニシャルで呼び合ってるんだ」

「じゃあ、サングェはエス?」

「あぁ。おい、さっさと起きろ駄犬」


そう言うと勢いよくファングを横から蹴り、椅子から落とした。きゃいんっという動物が痛がるときに発する声がしたんだけど大丈夫かな…。


「…サングェのエスは別の意味もありそう」

「何」

「なんでもないです」


漸く目を覚ましたファングはきょとんとしていた。


「俺なんで床で寝てたんだ?」

「…え゛?」

「サングェが起こしてくれたのよ」

「また蹴りやがったな?この鬼畜眼鏡」

「知らない。さっさと行くぞ」


スタスタ歩いていくサングェに文句を浴びせながらついていくファング、それを見て微笑を浮かべる狐金。この3人仲いいんだろうな、ってすごく思う。


「茨?」

「へ、あ、今行く!」


とりあえず今は、学園長室に行こう。


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