06


扉の前に立ったはいいが、龍の威圧感にやられて入る気が失せてしまった。え、怖い。


「…新入生?」

「うきゃう!?」


うんうん唸っているところに突然の美声。あたしは奇声を発してしまった。


「(うきゃう?)
大丈夫?ごめんなさい、驚かすつもりじゃなかったんだけど」

「だ…大丈夫です」


苦笑しながら相手の顔を見ると、思わず目を丸くしてしまった。綺麗な金髪に同色の狐耳。瞳は炎のように紅い。身長はあたしより10cmくらい高いだろうか。


「白狐?」

「いいえ、空狐よ。まだまだ子ぎつねだけどね。
あなたは…なに?妖力のかけらも感じられないわ」

「えっと…よくわかんなくて」

「は?」

「いや、当然の反応なんだけど、ごめん、わかんない」


しゅんとうなだれると、優しく頭をなでられた。


「わけありね。この学園にはたくさんいるわ。
私の名前は狐金よ、同じ日本出身どおし仲良くしましょ、茨」

「あ、うん!」


握手をして、笑いあう。なんだかほっこりした空間だ。すると突然教室の扉があき、あたしは固まった。


「お、なんだよ狐金。いるならさっさと入ってこいよな。ところでそいつ誰だ?」


にこにこしながら狐金の肩をばんばんと叩く狼耳の男の子。人狼ってやつかな?


「転校生よ」

「イバラ・シモツキ、だっけ?」

「うん、よろしく」

「よろしくな、茨!」


人懐っこい笑みに、年下なんじゃないか、という錯覚に襲われる。


「オレはファング、人狼な」


お、ビンゴだ。この2人を見てると、ここでやっていけるかもって思える。


「出入り口でたまるなよ」


…冷たい声に、また不安になった。
冷たい声はあたしたちの後ろから聞こえて、そこには肌の白い男の子が立っていた。髪は日本人に負けないくらい綺麗な漆黒で、瞳は狐金よりも黒っぽい赤。紅色っていうのかな?それからさらに冷たい印象を与えるシルバーフレームの眼鏡。よく見れば一束だけ腰に届くほど長い髪型だった。


「おう、わりぃなサングェ!」

「いいけどさ、その子誰」

「学園長から聞いてないの?」


学園長という単語がでた瞬間に顔をしかめるのを見て、何かあるんだなと直感的に感じた。


「転校生か」

「そーそー!」


にっこり笑って頭をぐりぐりするファングにちょっと冷や冷やしたが、サングェ…くん…?は気にしてないみたいだった。おそらくいつものことなんだろう。


「よろしく、霜月茨。
俺はサングェ、ヴァンパイアだ」


す、と出された手は握手を求めているとすぐに握り返すと、人間よりもひんやりとしていて、彼が狐金やファングよりも人間に近い容姿でも、まったくの別ものだと思い知らされた気がした。それにしても、ヴァンパイアは昼間も行動できるのか。間違えて記憶していたなぁ。


「…別に日に当たったら砂になって消えてなくなるとか、そんなことはないよ」

「!!」


整ったかんばせが呆れたようにゆがんでいた。


「せいぜい力が弱まる程度。あんまり変なこと考えてたら殺されるぞ。俺は間違えた考えを持たれやすい種だから慣れてるけど」

「ご…ごめん…」


謝ったのを聞いたか聞いてないかぐらいで、サングェは教室に入って行ってしまった。


「どうしよう…怒らせたかな」

「そんなことないと思うわ。付き合いが短いと分かりにくいけど、きっと彼なりに気遣ってるのよ」


口元を袖で隠しながら笑う狐金。そっか、不器用なのか。


「(かっこよかったなぁ)」


すでに席に着いたサングェを廊下から見て、そんなことを思った。



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