であい
木星の家に来て良かったなあなんて過ごすこと3日。彼は僕にこんなことを提案してきた。
「水星に会ってみないか?」
「水星?」
「あいつはちょっと自愛が過ぎるが、周りもよく見ることができる。きっとお前を癒せると思うんだ」
なるほど、確かにそうかもしれない。少しずつ他の惑星とも関わって、帰る手がかりを見つけたいとも思っていた。それに、月にももう一度会いたい。
「うん、僕も会いたい」
「じゃあ出掛けよう。今日はいるはずだから」
身支度を済ませて、二人でゆったりと歩を進める。
ーーーーー
お城みたいな大きな家。絶対水星の趣味だぞ。その家のベルを木星が鳴らして、僕は後ろに控える。 足音が聞こえて出てきたのは小さな男の子だった。
「もくせいだ」
「水星は居るか?」
「うん、はいって」
ちらりとこっちを見たその瞳は見覚えがある。薄い紫の髪にそれよりは濃い瞳。つまりは冥王星だ。あまり僕のことは気にしてないみたいだ。悪く言えば見えないふりっていうの?
「にいさん、木星がきてるよ」
「珍しいね、どうした?」
後ろのイケメンも、と笑いながら問う。い、イケメンって言われた!ちょっと嬉しい。だってあの水星に言われたんだよ!
「お前に会いに来たんだ」
「なあに、それ、口説かれてるの」
「違う、こいつを会わせようと思ってな」
「ふうん、名前は?」
聞かれて、戸惑ってしまった。木星には勢いで話したようなもんだったから。だって普通に話して信じてもらえるとは思えない。特に冥王星は信じてくれないだろう。警戒心強いから、この子。
「…俺から話そう。こいつは太陽だ。未来のな」
「たいよう?あの太陽かい?」
「そうだ。理由はわからないが、所謂タイムスリップをしてしまったらしい」
へえ、と面白そうにこちらに視線を向ける水星。嗚呼、冥王星が睨んでる、怖い。足取り軽やかに近くまで来て、水星の長い指が僕の髪に触れた。
「髪、切ってしまったの。ふわふわで可愛かったのに」
「え、あ、月が元服したときに僕も切って、それからずっと短いんだ」
「勿体無いなあ、がたいも良くなっちゃって。乙女な太陽はどこへいったのやら」
「僕だって男なんだから」
乙女って言われてもなあ、と苦笑すると、とびきりの笑顔を見せてくれた。なんか、女の子みたいで照れる。そんな馬鹿なことを考えていると冷たい視線を感じた。
「なにが太陽だ。そんなのかんたんに信じられると思ってるの?太陽くんはもっと、お前なんかよりずっと可愛いんだぞ」
綺麗な髪の毛がゆらゆら揺れて、逆立ち始める。しまいには禍々しい黒紫のオーラまで現れはじめて、あれ、僕死ぬの?
「やめないか」
その一声で冥王星のオーラは消え失せ、表情も元通り。勿論納得はしてないみたいだけど。
「冥、殺すのは偽物だとわかったときでいい。今は信じてみるのも一興だよ」
「物騒だ!」
「ふふ、冥は可愛いからね、この警戒心は私がつくったのさ。色々教えてあげたんだ。まあ、私は信じてるよ、君のこと」
「う…」
「兎に角、タイムスリップの原因は私も調べてみよう。それに魔術は冥が得意だからね、頼りになると思うんだ。木星のところにもたくさん本があったよね」
「ああ、過去に事例がないか調べてみるさ」
うわあ、二人とも大人な雰囲気だ。僕より確かに年上だけどさ、今は僕が年長者じゃん!不甲斐ない!
「太陽、」
柔らかい声音で名前を呼ばれ視線をやると、水星と木星が微笑みながらこちらを見ていた。
「私たちがお前を未来に返してあげる」
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