あの頃の君と!


太陽がタイムスリップ



なんてことない、いつもとなにも変わらない日を過ごしていた僕。月の家に行ったり月に怒られたり、本当にいつも通りだった。それが何でこうなったんだろう?

センター分けの前髪に、ポニーテール出来るくらい長い髪、それから今と変わらぬ可愛い麿眉。これまた可愛い猫目は見開かれている。


「誰だ、貴様」


キッと睨む相貌はまだそんなに迫力が無くて、なんだかなでくりまわしたくなる。

つまり、あれだ、目の前に元服前の月がいる。


「誰だと聞いている、答えろ」

「太陽、だよ」

「何を馬鹿げたことを。彼奴は俺の友達だぞ?それを語るとは良い度胸してるな」

「信じてくれないと思うけど、その太陽だよ。未来から来たみたい。だってこの庭、見覚えあるもん」


当然ながら信じてくれなかった。冷たく一瞥して、低い低い声を出して、出ていけと告げた。こうなったら月は何も話聞いてくれないだろうから、どこか泊まれるところでも探しにいこう。誰かの家にいくのもアリかな。木星とかどうかな。彼は博識だし、信じてくれなくても理解してくれるかもしれない。

そんなことを考えながら静かに移動していると、暖かいものが頬を伝った。


「あり、」


思い出すのは月の冷たい視線。
信じてもらえなかったな、あんな冷たい目、されたことないや。幾ら僕を罵っても睨んでも、月は耳を赤く染めていたり愛情を確かに感じたからなあ。それはもう、昔っから。

気が付くと本当に木星まで足を運んでいた。今と変わらぬ和風な家。強いて言うなら、今よりも木々が少ないかな。


「もーくせーい」

「どちら様、」


するりと音も立てずに現れた彼は、やっぱり僕が誰だか分からないようだった。知らないうちにここに来ていたこと、自分は未来の太陽であることなど、僕が説明できる範囲で説明した。彼に比べたら語彙量も少なくて、下手くそな説明だったと思うけれど、彼は優しく笑って中に入れてくれた。


「未来の私は、どうなっているんだろう」


お茶を僕に差し出しながら、不意に言葉を発した木星。その佇まいは今、僕がよく知っている木星と同じものだった。


「今の君みたいに、頭が良くて、優しくて、それに格好いいよ!」


ほんのりと桃色に染まった顔を袖で隠す姿は、土星じゃないけど可愛らしい。

少しして、木星はまた口を開いた。


「太陽は、逞しくなったな。あんなに女児のようなのに」

「そうだったかなあ?髪長いから?」

「華奢だしな」


ふふ、と上品に笑う木星を見ていると、心が穏やかになってきた。でもあの冷たい目だけは忘れられず、微笑んだまま顔が固まる。それに気がついたらしい木星はじっと僕の顔を見つめた。


「どうかした?」


話をそらすか何かしたい。だって彼なら核心をついてきそうで、気付きたくない、思い出したくないことを言い当てられそうで。
口を開いた、そう思ったのにそれはすぐ閉じられた。そして代わりにため息をついた。


「そういうところは変わらないんだな」

「えっ?」

「嫌なことがあった時ほど笑顔が多くて、ふと思い出して泣きそうな顔をするんだ」

「そんなこと…」


この時代なら彼は僕よりもずっと年下のはずなのに、よく人の観察してるんだなぁ。思わず苦笑してしまうと、木星は僕の隣に来て、握りしめていた拳を握ってくれた。


「誰かに話たほうが楽になることもある。私で良ければ聞かせてくれないか?」


ほろほろ
また暖かいものが頬を伝う。
それを見て木星は頭を撫でてくれた。全く、いつの時代もこの人は優しいんだから。えへへと笑うと、柔らかい笑みで返してくれた。





ーーーーー
続きます



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