竹取物語


月+かぐや/シリアス?/音都



※雪之丞的月寄り

俺たち惑星には、人間で言うなれば魔法ってやつが使える。そして、俺は、月光渡りというものができる。月の光を渡って、場所はもちろん時も超えられる。その力で、俺は度々地球へ向かうんだ。


「兄様、どちらへ?」

「嗚呼かぐや、いや、ちょっとな」

「ふふ、御夕飯までには戻ってきてくださいね。今日は私が作りますから」

「そうか!それは早く帰ってこなきゃな」

「ええ」

「じゃあ行ってくる」

「はい、いってらっしゃいませ」


月光渡り、呟くと、目の前に道が出来上がり、俺は少し早足で進んでいく。早く行って、早く帰ってきて、かぐやの手料理を食べるために。


―――――


詳しい時はわからない。でも、俺にとって忘れられない日が地球に存在している。
とある竹林の中にひっそりと佇む家。此処がその記憶の舞台だ。主人公は翁に婆、そして美しい1人の娘。俺が降り立つのは、いつも同じシーンである。


「行かないでおくれ、かぐや姫や…!」

「ごめんなさい、御婆様、でも私は帰らねばならないのです」

「姫様、お早く」

「しかし…」

「これ以上下界の穢れを吸ってはなりません、さあ、お早く」


あれは、月の使者だ。俺の星の住人。そして姫様と呼ばれる少女はもちろん俺の妹であるかぐやだ。何故こうなったか。それは彼女の過去にある。海王星でもあるかぐやは今では考えられないほどの荒くれで、太陽系だけでなく、他の小さな星ぼしに悪名を轟かす程だった。つまりは手を焼く星の化身だったのだ。仕置きというか、折檻というか、彼女を一度赤子にして、あまり交流のなかった地球へと送ったのが始まりだ。そして送ったのは、他の誰でもない、俺だ。しかし海王星の荒廃具合がすごく、それは化身であるかぐやが居ないためだと判明、十二分に反省していたこともあり、帰還させることになったのだ。


「穢れですって?いくら月からの使者であろうと口を慎んでくださいまし。怒りますよ…?」


すごんだのが効いたのか、申し訳ありません、と使者が狼狽えながら呟いた。そう、かぐやは地球に馴染みすぎていた。自分が本当に地球の姫であるかの如く。


「御爺様、御婆様、育てて下さってありがとうございます、心の底から感謝してますわ。それと、幸せでした。だからどうか泣かないでください、私は天から見守っておりますから」

「かぐや姫…」


かぐやは何も言わずに使者の方へ向き、目線で帰還を知らせる。1人の使者がついと杯を差し出す。


「穢れを払う薬です。どうぞ」

「必要ないわ」

「…は」


機嫌が悪いことを察し、すぐにそばを離れる。そしてもう1人の使者が歩み寄り、月光を浴びて銀に光るちはやを差し出した。


「下界での記憶は消させて頂きます。これを羽織ってください、因みに拒否権は御座いませんので悪しからず」

「下界での記憶を、消す?」

「ええ。面倒があっては困ります」


唇を噛みながら、使者たちの後ろに控えていた牛車へゆっくり歩を進めると、そっとちはやをかけられる。その瞬間表情が変わり、歩みも早くなる。使者たちはそれに続いて天に戻っていくのだった。

良かったのだろうか

放っておけばかぐやは人間に紛れて生きていけたかもしれない。本気でかぐやを好きな人間も居たらしいから、人間的幸福を得て幸せに暮らすことも出来ただろう。
そこまで考えたが、即座にそれを否定する。まず我々は惑星の化身であるから、外見は全く変わらない。つまり周りが年を取って死んでいっても、独りぼっちになるだけだ。


「…ふう」


大きく息を付き、背を向ける。そろそろ帰らなくては。今のかぐやが心配するから。


―――――


「っていう夢を見たんだ!」


キラキラ星のように輝く目で見つめられても反応に困る。大体俺とかぐやがそんな重たい関係なわけないだろう。一緒に話を聞かされたかぐやも苦笑している。


「太陽さま、それはないです」

「ええっ!シリアス展開!」

「うふふ、時を渡れたら神さまじゃないですか」

「かぐやの言うとおりだ。あれは俺の交通手段でしかないからな。よくもまあそこまで妄想出来たもんだ」

「くそ、馬鹿にされてる」


ちくしょー!と叫ぶ太陽は本当に馬鹿だと思う。心の底からそう思う。まあそのおかげでかぐやが笑うなら良しとしよう。


「で、太陽」

「む…」

「かぐやを夢に見るたあどういう了見だ、あ?」


しばらくして屋敷中に太陽の悲鳴が響いたそうだが、それだけ罪は重いのだ!


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