変わらないおもい


冥火/甘/音都



「火星、出かけるよ」

「はあっ!?」


現在の時刻、11:00過ぎ。夜の。この王子様は何をほざいているんだろうか。


「いいからきなよ玩具突っ込まれたいの」

「何でそうなる…。ちなみにどこ行くんだ」

「地球の日本って国の、なんだっけ、北」

「アバウトだなー」


しかも人の家にこの時間に乗り込むのか。確かに俺の家と近いけどさ、迷惑だろうに。そう思って一応連絡すると、うん知ってるーとの返事が帰ってきた。…きっと冥王星が無理を言ったんだな。胃がきりきりするぜ。胃薬を飲もうかと迷った時、ものすごい力で冥王星に引っ張られ、これまたすごいスピードで地球へと向かう。うっぷ。なんて速さだ。


「地球、来たよ」

「あ、こんばんはー!火星大丈夫?」

「おう、なんとかな」

「で?何処なわけ」

「あそこ、あの木の下」


指を指した方向を見ると、そこには織り姫と彦星の姿があった。幸せそうに微笑みあってるが、今日は逢瀬の日じゃないはずだ。


「まったく、冥王星ってば馬に蹴られて死んじゃうよ」

「だって信じられなかったんだもん」


ぷくっと頬を膨らます様は可愛いけれど、状況が把握出来ていない俺はそれどころじゃない。


「なんであいつら…」

「この国はね、幾つかの島で出来てるんだけど、向こうにある大きな島では7月7日が七夕って言って彼らの逢瀬の日なんだ。それは有名だし、2人も知ってるよね。でもこの島では、今日が七夕なんだ。つまりね、あの2人の逢瀬の日は年1じゃなくて、実は年2回なんだよ」

「なるほど…」


それであいつらは逢ってるわけだ。そんなこと知らなかったし、冥王星が信じられなかったと言うのも頷ける。


「…日付が変わる」


かちり、と地球には聞こえるらしい、日付が変わる音。そして恋人たちは名残惜しそうに体を離した。


「…また、来年ね、彦星さん」

「ああ、あいしてる」


最後にキスを1つして、織り姫が天へと戻り、彦星も続いて帰って行った。寂しさは確かにたたえていたが、それでも幸福感が勝っているらしく、2人とも笑顔で消えた。


「ほら、2人もそろそろ帰った方がいいんじゃないの?」

「うん、ばいばい」

「こんな時間に悪かったな、また来る」


行きとは違い、ゆったりとしたスピードの冥王星は、何かを考えているようだった。


「あの2人、幸せなのかな」

「あ?」

「年1、じゃないか、年2回の逢瀬なんかじゃ満足出来ないと思うんだけど」

「冥王星は寂しがりだからな」

「は?何言ってんの。1年禁欲生活する?」

「酷い」


はあ、とため息をついたが、ため息をつきたいのは俺の方だ馬鹿たれ。


「俺には、あいつらが幸せそうに見えた」


そう言うと、冥王星はほんの少し、驚きで目を見開いたけど、何やら納得したらしい、柔らかい笑みを浮かべている。
俺を送ってくれた冥王星、また何か考えているのか、真剣な顔をしていた。


「火星、僕は年1でも君が僕のことを想わない日があったら許さないからね。僕もそれ、守るようにするから」

「な…」


つまり、あれだろ、それって、ずっと好きでいるから俺もそうしろってことだろ。コイツなにそんな恥ずかしいこと言ってんだ。頭の中はそんなことでいっぱいだったのに、口から出てきたのは至極シンプルだった。


「当たり前だろ」


冥王星は満足そうに笑ってくれた。





―――――
北海道の七夕は7月8日です
1日遅れちゃったけれど…
織り姫と彦星は逢えたかな


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テーマ「人外ファンタジー」
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