使い古された愛の言葉


太月/甘/雪之丞



深夜2時をまわり静寂と月の灯りだけが支配する夜のこと、ジリジリと急かすような電話の声が鳴り響いた

「もしもし?月?僕なんだけどね!」

「あ゛ぁ゛?」

俺は今眠いんだぞっ不機嫌なんだぞっ、と言った体を隠すことなく出せる限り低い苛立ちを込めた声で返すと電話越しにビクリとした様子が伝わってきて少しニヤリとしてしまう

「こんな夜中になんの用だよ…」

「はっ…!あっあのね!外ね!月がねっ!あのねっ!」

「うん」

「あのねっ!」

「いいから、落ち着けよ
ほら、スーハー」

「スーハっげっほげほ…がふっ…!」

「おっおい、大丈夫か」

「だいじょ…、つっ…月が!くぃれいですにぇっ!」

「は?」

とりあえず落ち着かせる為に夜の靄を吸い込むようにこちらが深呼吸をすると馬鹿な太陽は吸いすぎたのかげほげほと咽せたらしい声を聞かせる
それからどこぞでよく常套される口説き文句も
まったく、どこで覚えてきたのやら

「だから月がぁっ!」

「知ってる、俺のこと愛してるって話だろ?」

「知ってたんだ…」

「当たり前だろ?自分の話なのに知らないほうがどうかしてる」

「だよねーハハハ、ハァ…」

電話越しでも分かりすぎる程しょんぼりと溜め息を吐いた太陽にはこっちこそ溜め息が漏れる
馬鹿は馬鹿らしく直球で言えば良いのに

「ハァ…おい馬鹿」

「馬鹿って言うことないじゃん!」

「月はな、太陽がいるから綺麗に輝くんだ
太陽が居ないと、輝けない」

「…?」

我ながらかなり恥ずかしいことを言っている自覚が月明かりのようにふわふわ落ちてくる

きっと明日になったら後悔するくらい
そのくらいの夜中のテンションと顔が見えないという電話の利点に身を任せて言葉を紡ぐ

だって嬉しかったんだ
俺の逸話を知っていてくれて
あまつさえその言葉を言ってくれて

「つまり、お前は俺を一生愛し続けろってことだ」

「そんなん当たり前だよ!」

「愛してる」

「僕も!好き!大好き!愛してる!ちょー愛してる!」

理解出来ていない様子だった太陽に率直に言ってやると、ようやっと意味が伝わったようで沢山の愛の言葉をくれる

「わかったから、もう寝るぞ」

「うん!おやすみなさい、愛してるよ」

眠気から完全に覚醒した頭にはだんだんと血が上ってきて全身に熱がたまったかのように赤くなってきた
それを悟らせまいと、早急に電話を切ろうとするとだめ押しの様に囁かれた甘い言葉

俺はこのままだとルナティックに染まってしまうかもしれないと考え、絶対に太陽には見えないよう枕へ顔を突っ伏して眠りについた





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