じ あーす!




特に理由もなく、僕は庭をぶらっと眺めていた。自慢じゃないけど、僕の家もみんなと同じくらい大きいんだよ。月くんとか木星くんみたいではなく、洋風の家。人間の家が変化していくように僕の家も変化させているから、今は洋風なのだ。気に入っている国は日本だからね。
話が少しずれてしまったけれど、僕の今眺めている庭のこと、これは僕の中にある植物たち、つまり地球上にある植物全てがここにある。和風な庭園もあればイングリッシュガーデンも作った。サバンナのような所だって。僕はこの場所が好き。すべてが揃う、この場所が。


「ちーきゅーうーう!」

「…この声は、」


甘さを含んだ低い声、間違いなく天王星だ。彼、か、彼女?は、未だに慣れない。テンションとか、激しいボディタッチとか。長いこと日本に住んでるからか、気性や習慣もそれに似てきたからかな…挨拶のキスは本当に勘弁してください。


「またここにいたのね」

「うん、こんにちは」

「ふふ、こんにちは。申し訳ないんだけれど、お茶頂いてもいい?走ってきちゃって」

「珍しいね。天王星、汗かくの好きじゃないんでしょう?」

「まあね。でも貴方に会いたかったんだもの」


ウインクをかまして、するりと庭から続く裏口から家の中に入っていった。


「…恥ずかしいひと」


黙ってれば整った顔立ちをしている好青年なんだもん、そんなことされたら誰でも照れちゃうよ。
頬に火照りを感じながら再び庭に視線を戻すと、強い風が吹いた。そろそろ入った方がいいか。そう思って僕は家へと向かう。


「あら、中入るの」

「うん。風も出てきたし、それに天王星汗かいてるでしょう、冷えて風邪引くよ」


裏口でばったり会って、そう告げると、撫でられた。優しい目をして、暖かい手で髪をすくように。


「ありがとう地球、優しいのね」

「えっふ、普通だよ!普通!ほら、入るよ!僕も喉乾いてきたし」


先の風で引いたはずの熱がまた集まってきて、それが恥ずかしくて早足になる。天王星の前をキープしないと、このゆでだこ姿を見られてしまう。


「真っ赤になっちゃって、かーわい」


ばっと声の方を見ると真横に居て、爽やかな笑顔で僕の顔を見ていた。は、恥ずかしい…!こうなるのが嫌だったから早足で戻ろうとしてるのに。でもよく考えると、彼は脚が長いんだから、僕にすぐ追いつくのは当然のことであって。そんな簡単なことがわからなくぐらい、僕は焦っているようだ。
家の中に入って台所につくまで、ずうっとニヤニヤしていた天王星。突っ込んでもどうしようもないから、僕はなるべく気にしないようにして、麦茶を取り出し一気飲み。ぷはっと息を吐けばまた頭を撫でられる。なんだよ、と言おうと思った口は、何故か動かなくて、色素の薄い睫毛が目に入った。


「つめたい」


ぺろりと自身の唇を舐めるのを見て、僕はキスされたんだとようやく理解する。瞳がギラついてるのを見て、僕はその場から逃げようと試みる。が、背中に冷蔵庫前に天王星。横にはすらっと長い天王星の腕。なるほど流行りの壁ドンってやつか。おでことおでこがくっついて、つまりは綺麗な顔が目の前にあるわけで。
ほっぺにキスされたと思ったら今度は耳元に。


「逃がさねえよ」


突然の男言葉に、僕の腰は砕かれた。





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