愛妻の日


冥火



インターネットをサーフィンしていると、ジューンブラインドに向けて今から指輪の予約に行こう!なんて文字が踊っているのを見つけ、なんとなく気になって冥王星を呼んでみた

「冥ー、これ見てみろよ」

「何?くだらないものだったら犯すよ」

「ちょっとなにこの子怖い」

いつものように軽口を交わしながら近づいてきた冥王星に指輪業者のエンゲージ特集を見せるとフフっと馬鹿にしたように冥王星の白い鼻から吐息が抜けた

「火星ったらこんなの欲しいの?」

「欲しいっていうか、なんとなくさ…この指輪とか水星に似合いそうじゃね?」

「兄様は美しいものが好きだからね、こっちの方がいいかも!」

水星の話になると途端に弟馬鹿を発揮してテンション高くなる冥王星に少し呆れつつ一緒に眺めているとそういえば…と何か思い出したように冥王星が語り始める

「前に土星と話してたんだけどさ、指輪って最高の拘束具だよね」

「は?」

「だってこんな小さい輪っかで相手の人生束縛できるなんて最高だと思わない?」

「いや、思わない?と聞かれても冥王星さん
俺はお前らみたいなドSコンビとは違うんで…」

首に巻かれていた赤い拘束具をするする愛撫するように聞かれても正直最近じゃドMロードまっしぐらな自分はたじたじとしか出来ない

それにしてもそうか、そんな考え方もあるのか…

話し終えてすっかり満足したのか、また兄に似合うであろう指輪やら今度はネックレスのページに移動していた冥王星を見て薄らと笑みがこぼれた







翌日、俺は水星と金星に付き添いを頼んでジュエリーショップを訪れていた

「ねぇねぇ、何買うの?」

「…秘密」

「別に金星にくらい言っても良いだろうが」

指輪を見ていると店内を歩き回っている金星と水星の声が聞こえる

「すごい…綺麗だねぇ」

「美しいな…これなんかお前に似合うんじゃないか?」

「僕にはそんな綺麗なものつけられないよ…」

「金星…」

「そんなことよりこっち水星に似合いそう!」

耳にかすかに流れてきた会話にあの2人にも色々あったみたいだからな、と聞かぬフリで冥王星への指輪探しに集中する

「お客様、どういったものをお探しで?」

「ペアのリングを…」

「まぁ、恋人に?」

「えぇ、まぁ…」

「ふふっ…でしたらこちらのほうが当店オススメとなっておりまして、カタログ等もございますのでよろしければご覧下さい」

「ありがと、うございます」

「では、何かありましたらお声かけ下さい」

「はい」

渡されたカタログをピラピラ捲っていくとなんだかどれも同じように見えてきてしまい分からなくなってくる
そして最終ページに近づいたところでハタ、と手が止まった
細い銀色の、冥王星の細い指にぴったりと似合いそうな指輪

「水星、ちょっといいか?」

「何だ、くだらないものだったら犯すぞ」

金星といちゃついていたところ悪いがこれ見てくれ…というと少し不機嫌になりつつも近づいてくる水星
そしてさすが兄弟、昨日冥王星もそんなこと言ってたな

カタログを見せると水星の口からほぅ…と小さく空気が抜ける音が聞こえる

「お前にしては良いものを選んだな」

「お前にしては、は余計だっつうの」

店員を呼び、指輪サイズやらその他諸々を水星にフォローされながら伝えるとあっという間にオーダーが済んでしまった

後はだいたい2ヶ月後くらいに連絡が来たら取りに行けば良いらしい

「ありがとうございました!」

店員の声に送り出され店を出ると、大分時間が経っていたらしく日が落ちてきている

「あー、今日はありがとな」

「冥の為だからな、当たり前だろう」

「火星君、また遊ぼーね!」

金星はこれから水星宅に遊びに行くらしく2人に感謝と別れを告げ家に帰る

今日は早く家に帰って雑誌の猫特集で癒されたい…

そうだ!途中猫カフェにも寄ろう!


束縛、か…










「本日指輪が出来上がりましたのでお時間の許す頃、またお越し下さいませ」

例の指輪を注文してから約2ヶ月
指輪のことなどすっかり忘却の遥か彼方天竺辺りまで吹っ飛ばしていた頃、知らぬ番号からの電話をとると指輪が出来たので取りに来いというものだった

昨晩からプレイの一環として小振りなバイブレーターを後穴に仕込まれていたのだが、今朝から現在まで振動していないことを考えるともう暫くは安全そうなので隣で眠る冥王星が中のスイッチを入れる前に、と急ぎ足で店へと向かった

「お待ちしておりました、こちらお確かめ下さい」

「あ、間違いないです」

店員から小さめの箱を受け取り中に2対の指輪が入っていることを確認してありがとうございましたの声を背に受け店を出ると急にブルブルと震えだす中の物体

途端ひくりと背中が震えてこれは急いで帰らなければ、と歩みを速めた







「おかえり火星、僕に無断でどこ行ってたの?」

家に着く頃にはもうきゅうきゅうと後ろが疼き息荒く玄関を開けると、そこには真っ黒黒助も驚愕に裸足で逃げ出す程暗い笑みを浮かべた冥王星が立っていた

「いや、ちょっと…」

「ふーん…とりあえず駄目な猫にはお仕置きが必要だよね、ほらおいで」

「痛っ」

「当たり前でしょ、お仕置きだもん痛くするんだよ」

後ろに束ねた髪を鷲掴みにされ引っ張られると痛みと快楽から目尻に涙がたまる

別段隠すべきことではない筈なのに、きゅんきゅんと疼く全身は冥王星からのお仕置きを心待ちにしていてついに口を開くタイミングというものを失ってしまった

「ひぃ、ん…めっぃい…くっぅん」

「なに、こんなので気持ち良くなってんの?」

「はっ、にやっぅ…もっ、とぉ…」

「ふっ、変態」

「あぁん…」

一戦どころか二戦三戦までを終えてしまい、裸のまま引きずり込まれたベッドの上で指の一本すら動かす気力なくうなだれていると同じく裸のまま潜り込んできた冥王星にぎゅっと抱き締められる

「今日はもう、やんねーぞ」

「うん、ところでさ火星さっき本当にどこ行ってたの?」

「あー、指輪屋」

「指輪屋?」

「そう、そこにある俺の鞄開けてみ」

自分で立つこともままならないので冥王星にとってきてと言うと素直に回していた腕を離し鞄の中に入っていた箱をもってきてくれる

「これ買ったの?」

「聞いて驚けオーダーメイドだ」

「僕と火星の…?」

「おう!」

箱を開けて中を見せると冥王星の華奢ながら以外と男らしい背中がふるふると小刻みに震え出す

「あっはは、まさか火星に首輪はめられる日が来るなんて思ってもみなかったよ」

「なんだよそれー!」

「あはっ、どうしよう凄い嬉しい…」

爆笑しても顔が崩れないのってある意味特技だと思う

めちゃくちゃに破顔した冥王星がありがとうと抱き締めるのでどういたしましてと抱き締め返すと顔中に熱いキスの嵐が襲いかかってくる

「火星にだけは一生束縛されてあげる、だから僕から絶対に逃げないでよ?」

「逃げれるもんならとっくに逃げてるよ、でももうとっくに俺は冥のものだから」

言い終えた後、抱き締められたままの体制で冥王星の胸元にすりすりとまるで猫が自分の臭いをマーキングするように自分の頬を擦り寄せると、さらに強い力で冥王星の腕の中に閉じ込められた





「(愛する君を束縛してみた)」








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