劣等


※若い



それでね、月が…

楽しげな声が何処かから聞こえて、自然とそちらに顔が向く。そこには火星、冥王星、金星の姿と、一緒に話をしている太陽がいた。

そういえば彼奴は何時も誰かに囲まれているな

社交的な太陽が好かれるのは当然だと思う。俺もあの性格に何度も救われた。それに、警戒心の強い冥王星が水星や火星以外にあんな優しい表情をするのだ、ひとを惹き付ける魅力というのが備わっているのだろう。

羨ましい

ちり、と胸が変に疼き、疑問符を浮かべる。理由は分からないが、今彼奴と顔を合わせたくない。手にある風呂敷には何冊かの本。其をぎゅ、と持ち直し、ふいと視線を下げ、いつもの木の下を目指す。其処にいると、なにも考えずに本だけに没頭出来るのだ。足早に向かい、どすんと腰をおろす。


「らしくないな」


彼奴がひとに囲まれているのは、先に述べた通り、いつでもなのだ。

じゃあ、おれは?

基本的には自分の世界に入り浸っているから、彼奴のようになることはない。一番話をするのは木星だろうか。それも本の話なんかが多いから、俺の世界から抜け出してはいない。可愛いかぐやとはあまり本の話はしないし…

嗚呼、ひとりが多いな


「…くだらん」


ため息をひとつついて、俺は本を取り出した。


ーーーーー


火星たちと話終わって、僕は月を探しに動く。ほんのすこしだけど、さっき月の視線を感じたから。おそらくいつものところに居るだろう。見つけたら抱きついて、たくさんキスしてやろう。ゆるりと頬の締まりがなくなり、左手で隠す。

あれ、

月のことを僕の目がとらえたけれど、なんか変。いつも僕じゃ絶対に無理なスピードでページが捲られていくのに、少しも動かない。
近付くと、すーすーと寝息が聞こえてきた。傍らには難しそうな本がたくさん。静かに座って、そのうちの1冊を手に取り、パラパラと捲ってみる。

わ、わけわかんない…!

漢字がいーっぱい書いてある。これもしかして、前に月が言ってた漢文ってやつなのかな。すごいなあ、こんな難しそうな本、読んじゃうのか。木星と月が、本の話で盛り上がっているのをよく見かける。よくわからないことを話していて、頭が痛くなりそうだと何度も思った。でも彼等、頭のいいふたりにとったら何てことない話題なんだろう。多分水星もついていけるな、賢いもの。
僕は本当に頭が悪いし、小さいときなんて女の子みたいにひょろかった。月より大きくなってがたいも良くなったのは最近のことって言っていいだろう。
あの頃は強くて頭がよくて、きれいな顔立ちの月に心のそこから憧れていた。あとストレートの髪ね!

このひとも、馬鹿だと思ってるんだろうな

そりゃそうだ。木星のように本をたくさん知っているわけでもなく、水星のように魔法を多く扱えるわけでもなく。あるのは性的な知識だけ。そのおかげて可愛い月が見られるけどね!でもまあ、彼からしてみれば不必要、なんだろう。


「たいよう…?」


いつの間にか俯いていた顔を勢いよくあげると、起きたばかりでとろんとした瞳が僕を写していた。


「ねえ、つき、」


返事がある訳じゃない。でもその優しい無言は、僕の話の続きを促していた。


「僕ね、馬鹿なこと、コンプレックスなんだ。月と同じ目線に立ってみたくて、本を読もうとしたけど、駄目なんだ。まず僕、語彙量少ないから意味がわからないし」


話していると、欠伸をされた。
一応真面目に話していたんだけど。


「馬鹿か」


そして吐かれる暴言。
だから僕はバカなんだってば!


「お前がついてこられなくて当然だ。俺や木星は、知識が必要な環境に在ったのだ。お前は違うだろ、太陽」


真っ直ぐな視線に、なにも言えなくなる。
確かに僕は、僕のほしには僕ひとりしかいなくて、僕以外のことを考えなくてよかった。でも月には他に住人がいる。そのひとたちをまとめていく上で、知識が必要だったんだと思う。


「お前にはそのぶん社交性がある。俺には欠けている能力だ。正直、羨ましく思う」


その言葉に、ふと思い出す。そういえば、月は群がったりしないな。それはただ、性格的に好きじゃないからなんだと勝手に考えていた。でも本当は、みんなでわいわいしたいんじゃないか、そう思ったら、今まで凛として本に向かっている、クールだと感じていた背中が、寂しそうな色を帯びているように思えてきた。


「何しやがる」


あきれた声が僕を責める。突然抱きついたからだ。でもやめるきはない。理由はわからないけれど、月がものすごくはかなく見えたから。


「賢くなりたい」

「無理だろ」

「酷い!」

「お前には必要ない。お前はただ、笑っていれば、いい。…落ち着く」


それは、僕のバカさを拠り所にしてくれてるってことでいいんだろうか?


「わかった!」


それなら僕はずっとずっとバカでいる。月が言葉にできないことは代わりに言葉にする。そんな思いを込めて、僕は更に強い力で月のことを抱き締めた。





ーーーーー
結局わたしったら
何が言いたかったのかしらん



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