ホトトギス


肌寒くなって幾ばくかの日数が過ぎ去った。暦の上では秋かもしれないけど、風が通りすぎるたびに冬のにおいがしてきている。

といってもそれは地球に遊びにいったときの感想なんだけれど。

特にすることのない僕は、いつものように月の家にお邪魔していた。
とはいっても残念ながら家主は出掛けているらしく、可愛い妹君かぐやと歓談中である。


「兄様ったらどちらへお出掛けなさったのかしら」


僕にも出してくれたお茶と同じものをちびちび飲みながら、呟いた。確かに僕が連絡して家について、だいぶ時間がたっている。あまりないシチュエーションに、嫌なことを考えてしまう。
すると突然向かいにいるかぐやが笑いだした。


「そんなに心配せずとも、兄様なら大丈夫ですわ。惑星たちのなかでも秀でていらっしゃいますから」

「なんだよ、顔に出てたかな」


ちょっと恥ずかしくて、それを誤魔化すためにお茶を一気に流し込む。火傷をした。


「遅くなったな」


口の中の違和感に気をとられていると、後ろから愛しい声が聞こえた。あまり感情は籠っていないようだけど、普段より息が荒いことから、急いで来てくれたことがうかがえる。嬉しくなって勢いよく振り向くと、ほんのり笑ってくれた。


「お帰りなさいませ。お茶の準備いたしますね。冷たいほうが良かったでしょうか」

「悪いが頼む」

「ふふ、太陽さま、ごゆっくりなさってくださいね」

「ありがとう!」


かぐやが静かに部屋を出ていくと、先程のかぐやの席に月が座った。よく見ていなかったのでまったく気が付かなかったが、かさりと何か物を置くおとがした。首をかしげると、月のお茶を持ったかぐやが入ってきた。


「何かあったら言ってくださいね!」

「俺だって茶ぐらい淹れれるさ」


苦笑しながら頭を撫でる姿を見ていると、穏やかな気持ちになる。仲良しだなあって。

再びかぐやの背中を見送って、月は喉を鳴らしながらよく冷えた麦茶を緑茶を飲み干した。たまにこうやって男らしいことするもんだからきゅんとしてしまう。馬鹿なことを考えていると音の正体を取りだし僕に差し出した。


「やる」

「僕に?いいの?」

「要らんなら他のやつにやるが」

「貰う!ありがとう!」


普段あまり見ない花だ。というよりも見たことがない。名前すらわからなくて、くれた意図がわからない。もちろん嬉しくは思っているのだけど。
正直、花の美しさなんて僕にはわからないから、安直に薔薇なんかのほうが美しく見えてしまう。


「地球に貰ったんだ」

「え…もしかしてだから遅かったの?」

「ああ、急いだんだが間に合わなかった」

「そんなこと気にしてないよ!」


しゅん、と悲しい顔をされてしまった。わざわざ僕のために、貰ってきてくれたんだろうし、怒るわけないのに。僕のほうがよっぽど遅刻してるよ。


「ありがとう。それはホトトギス。花弁の斑点が似ていることから名付けられたそうだ」

「へぇ!この花にも花言葉ってあるのかなあ」

「…そういえば聞き忘れてしまったな」

「あはは、今度聞いてみる!」


そうか、と微笑む月はとっても可愛くて、もうほんと、今の僕って最高に幸せじゃないか!
そう思ったら無性に愛しくなって、ものすごい勢いで抱きついた。


「ありがとう月。大事にするから」

「帰ったら枯れてたとかやめてくれよ」

「が、頑張るよ」


二人して笑って、そのあと静かに口づけた。



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