僕から見たあの日


水金/甘、微エロ/音都



「水星!おはよう!」


元気な声の主はにこにこしながら私を見つめている。それが何だかこそばゆくて、思わず笑ってしまう。


「おはよう金星」


褐色の肌が元気な性格をよく表しているようで本当に愛しい。最初は全く思わなかった感情に、何故今まで感じなかったのかを後悔するほどだ。


「ねえ、知ってた?今日は僕がやっと水星に受け入れられた日なんだよ!」


嗚呼だからこんなにも複雑な気持ちだったのだろうか。会った瞬間から、じんわりと暖かいものとちくりと刺すような感覚が胸を埋め尽くしていたのだ。


ーーーーー


すたすたすた
てとてとてと

たたたた
てててて

ぴたっ


「?」

「何故追ってくるんだ」

「すき」

「…もうついてくるな」


ぼくはこの水色のキラキラした人がだいすきで、見つけるとおいかけてしまう。でも水色の人はぼくがすきじゃないみたい。そりゃそうか。

日に当たるとプラチナのように輝く髪は、普段だってキラキラきれいで、肌は真っ白。見たことないけど、たぶん雪みたい。目ももちろんきれい。髪よりは濃い青色で、まつげも長いんだ。

ぼくとは正反対

水色の人はじぶんがきれいなことを分かっているみたいで、それにみあった行動をしている。まわりにいるのはみんな美人だし、弟さんもかわいらしい方だった。地面と同じ肌をしたぼくとは大違いなんだ。

ついてくるなと言われたのは、そういえば今日がはじめてだなあ。

ある日、ぼくにすればなんてことない、何人かの男の人に路地裏に連れてこられていた。やることは、まあ、決まっている。別にそんなに嫌じゃない。だってこの時だけはみんなぼくを可愛いねってほめてくれるんだ。それに頑張ればほめてくれるし気持ちいし、わるくない。


(さいきん水色の人にあってないな)


口でくわえながら、ふとそんなことを思った。あの人はこんなことしなくてもほめてもらえるからなあ。きっと今のぼくを見たらけいべつするだろう。そこまで考えたところで後ろに熱を感じて、思考がふきとんだ。前でも白色がぼくの茶色い肌をよごした。いや、まてよ、たくさんかかればぼくも白く、あの人みたいな肌になれるかな。
口にもあるこの白、苦いけど飲んだらほめてくれるからなあ。ごくんと音をたてながらのみこむとやっぱり頭をなでてくれて、うしろにもだされた。あつい。また別の人がうしろに入ってきて、口にもまたくわえさせられた。
突然、うすぐらい路地裏がさらにくらくなった。


「何をしている」


ずんとお腹にひびく声がしたと思ったら、水色の人だった。周りの男の人たちはいそいでいなくなった。まさか本当に見つかるとは。
静かに近づいてくるこの人を、けいべつされるかもとか思ってたくせに、何も怖くなかった。
ぼくの目の前でへたりとすわりこんで、うごかなくなる。そんなにショックだったのかな。するとすぐにぽろぽろ涙を流しはじめるんだもんびっくりだ。


「あの、」

「いつも、こんなこと、してるのか」

「めずらしくはない、かな」

「どうして…!」

「どうしてって、あなたとはちがうからさ」


意味がわからないというように少し怖いかおをする水色の人。そんな表情すら美しい人にはりかいできないだろうなあ。


「あなたは美人で、なにもしなくてもみんなに愛してもらえるでしょう。ぼくはむりなの。みんなとちがうから。こうすればみんな可愛がってくれる。ちがうか、こうでもしないと愛してもらえないの。そのためなら、ぼく、何でもするよ」

ぼくが言い終わるまえに、水色の人はぼくのことをだきしめた。


「え、あの!」

「すいせいだ」

「…?」

「私は水星だ。お前、金星だろう?」


この人も、ぼくと同じ惑星だったのか。
あれ、おそろいだ。嬉しいな。


「よごれちゃうよ」


聞こえてないみたいだけど、ぼくは水星をひっぺがして体をきれいにして、家まで送ることにした。鼻も目も真っ赤で、涙も止まっていない。場所は確か、あれ、ぼくの家の、となりか。


ーーーーー

金星が当時のことを振り返って話しているとなんだが切なくなって抱きついてしまった。


「どうしたの?」

「よくわからない、けど、お前の魅力にすぐ気付かなかった私は本当に馬鹿だなと」


笑いながら、金星は私の髪をひとたば取った。そしてそのまま引っ張られる。


「痛い」

「僕今幸せなんだからさ、そんな顔しないでよ」


あのときの顔にそっくりだよ、と言われ、心の中を見透かされたような感覚までして、どうしようもなく可愛くて愛しくて、とりあえずさっきより強く抱き締めたら、苦しいと笑われた。



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