:: 3周年 | ナノ


ふとしたときに思い出すのは、遠い夏の日のこと。それは、かけがえのない仲間たちと駆け抜けた夏。

あの日、あの瞬間。
一瞬、一瞬がとても輝いていた。

もし、あのとき彼らに出会えていなかったら。きっと私は、今でも臆病なままの私だったと思う。だけど、臆病な私はもういない。

彼らに、彼に出逢えたから。

彼と出逢えたから、私の人生は変わったの。下ばかり見ていた私を、前に向かせてくれた彼。だから私は、彼のことを好きになった。

あの雪の降る日に告げられた彼の気持ち。あのときのことは、今でも鮮明に思い出すことができる。

まるで天使の羽のような雪が降った日。きっとあの雪は、天使たちからの贈り物。私と、そして精市くんに贈られたプレゼントだったんだ。だからかな。あの日から、雪の日が好きになったの。

そして、大好きな人の温もりもー…。

「んっ…」

微睡みの中にあった意識がゆっくりと覚醒して、少しずつ目が開く。そして、ぼんやりとした視界の先にあったのは大好きな人の笑顔だった。

幸村精市くん。彼が、臆病だった私に手を差し伸べてくれた人。そして、雪の降る日に想いを告げてくれた人。あの日から、私と精市くんはずっと一緒にいる。

大学生となった今、私たちは東京にある大学に通うためにそれぞれ一人暮らしをしていた。だけど、お休みの日になるとこうして精市くんの家に泊まりに来ている。だからこうして、同じ部屋にある同じベッドで寝ているのです。

こうやって、朝起きて一番に精市くんの顔が見れるのってとっても幸せなんだよね…。

「ふふっ。おはよう、名前」
「…おはよ、精市くん」

精市くんの大きな手の平が、私の頭を優しく撫でてくれる。それがあまりにも心地良くて、私はまた目を閉じてしまった。

そうやってもう一度夢の中へ旅立とうとしたとき、ぷにっと頬を抓られた。

「ふ、ぇ?」
「ダメだよ。起きて」

私の頬をつねったのは、もちろん精市くん。そして頬を抓ったかと思えば、今度は楽しそうに頬を突っつき始めた。

むー…。だけど、それは嫌なものじゃない。頭を撫でられるのと同じくらい優しくて、だけどちょっとくすぐったい。これじゃあ、眠れないよ…。

「んーまだ、寝てたいよ」
「だから、だーめっ」

今度は、両手を使って頬を抓ってきた精市くん。そうすれば精市くんは、「変な顔」と言ってクスクス笑った。

「うーへ、へんにゃかおひゃないもん…」
「うん。知ってる。可愛い顔だよ」
「っ…!」

優しく微笑まれながらそんなことを言われてしまえば、顔の中心に一気に熱が集まる。そのせいか…じゃなくて、そのおかげか、微睡んでいた意識が一気に覚醒した。

やっぱり、これだけはどうしても慣れない。精市くんと一緒にいるといつもドキドキして、彼の言動にはいつも頬を赤く染めてしまう。中学生のときからずっと一緒にいるから、もう慣れてもいいはずなのに…。

うぅ、どうしても慣れないよ〜…。

「…今日はお休みなのに、どうしてもう起きなきゃいけないの?」
「俺が退屈だから」
「えー?」
「さっきまでずっと名前の寝顔見ていたんだけどね。そろそろ君と話がしたいなって思って」

ね、寝顔見られてたんだ…!うわわ、どうしよう。口開いてたり、よだれ垂れたりしていなかったかな!?

そう思い、ぺたぺたと自分の顔を触ってみる。そうすれば、また精市くんに笑われてしまった。

「可愛い寝顔だったよ」
「またそんなこと言う」
「名前は、いつまで経ってもこういうのに慣れないね」
「だって…」

慣れよう慣れようって頑張っているんだけど、やっぱり無理だよ!だって、日を追うごとに精市くんがかっこ良くなっていくんだもん。

昨日の精市くんに慣れたかと思えば、今日の精市くんは昨日の精市くんよりさらにかっこ良くなっているから困っちゃう。そして今日の精市くんに慣れたとしても、明日の精市くんはさらにかっこ良い。

だから、また慣れなくて…。そんなことの繰り返しで、まったく慣れない。

「精市くんが、いっつもかっこいいから…」
「っ…!」

ポツリ、と呟いた言葉。それは別に意識して言ったことじゃなくて、無意識の内に口から零れてしまった言葉。

だから、しばらくは自分が何を言ったのか気づいていなかった。それに気づいたのは、精市くんに抱きしめられたとき。

「わ…!」
「まったく…。君はいつまで経っても変わらないね」
「へっ?」
「いつも君は、俺の鼓動を早くさせる」

トクン、トクン、と伝わってくる精市くんの鼓動。それは、規則正しいものじゃなくて不規則な速さを持ったもの。

だけど、それに負けないくらいの速さで私の鼓動は高まってゆく。

だって精市くんに抱きしめられているんだもん。初めて抱きしめられたわけじゃないのに、やっぱりこれにも慣れない。もう、慣れないことばかりで心臓が持たないよ…!

「ねぇ」
「…なぁに?」
「キス、してもいいかい?」
「そっ、そんなこと聞かないでよ…!」
「ふふっ。だって、突然キスすると怒るだろう?」
「それは、そうだけど…」

だけど、どっちもダメって言うか…。別に、キスするのはダメじゃないし私だってしたいっていうか…。

ええっと…。

「慌ててる名前も、可愛いよ」
「また…!」
「それで?キス、していいかい?」
「返事なんて聞かなくても、分かっているくせに…」
「そうだね」

むー、と尖らせた唇に、精市くんがちゅっと口づける。それは、子ども同士がするような可愛いキス。

そんな一瞬のキスが終わって離れた精市くんの顔を見つめれば、精市くんは柔らかく笑ってまたキスをしてくれた。何度も、何度も。まるでお互いの唇の柔らかさを楽しむかのように。

だけど、そのキスがだんだん熱を持ち始める。

そして自然と、私は舌を差し出した。そうすれば、精市くんが私の舌を自分の舌で絡めとってくれる。それはもう、さっきまでしていた子ども同士のキスとは違うキスで…。大人同士がする、キスだった。

「ぁ…ふっ…」
「っ…ふふっ、可愛い。…ねぇ、名前」
「ん…?」
「愛してるよ」
「…私も、愛して、る」

そうやって愛を囁きあった私たちは、お互いを抱き寄せてまた目を閉じた。たまには、こうして静かに眠る休日もいいかもしれない。そう、心の中で思った。精市くんはさっき、退屈だなんて言っていたけど。

でも、私はこうして二人の間に流れる穏やかな時間が好きだから。

だから、これから先もずっとこんな時間が続けばいいと思う。目が覚めて最初に見るのは、精市くんの顔がいいから…。


2015/08/08

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