あるところにロミオとジュリエットの生まれ変わりがいました



「あ」

帰り道。いつもみたいに学校の門を抜けて商店街を歩いた。少し行くとちょっとした通りにでて、そこで見つけた、ひとつの白い、その服。目の前のショーウィンドウにに飾られたその服は、女の子なら一度は憧れるなどと言われるものだった。胸元には小さなレース、腰元には大きめの薄い紫色をしたレースが何層にもあしらわれていて、とても綺麗だと、ただそれだけを思った。一応自分も女の子なので、幼い頃から、この服を羨ましがってはいた。男勝りだと言われようとも。隣をみると、赤いツノ帽子はふんふんと鼻唄をうたっている。興味なんてこれっぽっちもないらしい。べつに、期待なんてしてないけれど。夕方5時の夕焼け小焼け。小学生の頃はこの音を合図に家に帰った。ウィンドウに映される自分の姿は、もう高校生で、Tシャツにスカートで公園を走り回っていた頃とは大分変わってしまったんだなあと思った。あれ、やっぱり今とあんまり変わってないかもしれない。もう一度みつめる。夕日に照らされるそのドレスは、やはり綺麗で、いいなって思った。なに見てんだよ。ひょこ、と自分の横から顔をだしたそいつは、ウィンドウの向こうの服をみて、あー、と間延びした声をだした。ここにこんな店あったんだなあ。けらけらと笑う奴は、やっぱり興味はないらしい。期待なんて、していない。綺麗やな。6月だし、ジューンブライドだな。ああ。言われて気づいた。そうか、このドレスを着る人は幸せになれるのか。いい、な。ぽつんと呟いてみたものの、横にいる男には届かなかっただろう。届いてなんてほしくない。お前も、こういうの憧れたりすんのか?指でドレスを指しながら問いかけてくるツノ帽子。まあ、せやね、一生に一回は着てみたいと思っとるよ。へえ、お前もやっぱ女だなぁ。へらっと笑われた。やっぱってなんやのやっぱって。二人でドレスを見ながらこのレースが可愛いとか新郎の服が気にくわないとか言いながら、しばらくしてどちらが言ったかはわからないけど帰ろうと言った。夕焼け小焼けからは一時間ほど経っていた。あともう少しでアタシの家に着く頃だった。祐助はいつも家の前まで送ってくれる。その事に感謝しながら、もう一度、ドレス綺麗やったね、と呟いた。ああ、そうだな。ボッスンがあの新郎の服着たりしたらアタシ笑い転げるわぁ。俺だってお前があんな綺麗なドレス着たら笑ってやるよ。アタシがあのドレス着る時、来ると思う?返事は、なかった。無言のまま、家に着いた。じゃあな、と返されるじゃあな。玄関に鍵を差し込んで扉を開けたとき、後ろから声がした、振りかえる。来るよ。そう言った。なにが?お前があのドレス着る時、きっと来る、お前一応美人の部類だしさ、きっと、いい男がお前のことジューンブライドにしてくれる、よかったな、式には呼んでくれよ、俺スピーチしてやっから、あと約束通り、笑ってやる。そこまでベラベラとしゃべると、赤いツノ帽子はもう一度じゃあなと言って帰っていった。嬉しくなんてなかった。涙がでた。アタシが望んだのはあんたに笑われることでも、あんたの上手なスピーチを聞くことでも、あんた以外の人にあのドレスを着せて欲しいことでもないのだから。馬鹿。きっと祐助はアタシが何を考えてアタシがどうしてほしいかわかってる。わかったうえで何も言わない何もしない。彼は頭がとてもいいのだ。よすぎるくらいに。まだそう遠くないところで赤いツノ帽子が揺れる。叫べば届きそうな距離だった。アタシは!喉元まででかかった言葉を無理やり飲み込む。思わず言ってしまいそうになった言葉は、アタシの胸の中にお墓をつくって埋めておいた。

恋物語の最後になっても、結局二人は繋がらない

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