ため息も美しい人だった。
だからあたしは彼が好きだった。
彼はほんとうはあたしの遥か前にいるような人だった。
そんな彼の隣にいることを強く願い、叶ったとき。
彼と同じ視点に立ったとき、真新しい光景を目の当たりにした。
貴方の隣に立てた。
同じ目線。
知りたくなかった。
貴方の近い体温。
眼差し。
貴方の見つめるその先。
「志摩、あんた、杜山しえみのこと、好きでしょ」
「ねえ、どれくらい好きなの?」
先程から動くことのない彼の瞳の中の、影で少し黒くみえる液体は窓の外の小さな人を映していた。
貴方の愛するあの人。
貴方の見つめる唯一の人。
「それは、もう、」
誰にも負けないくらい。
ふわりと笑いながら発せられる彼の吐息には、深い感情が、行き場のない愛情が混ざっていて、それを吸い込んだあたしは死にたくなった。
窒息。
酸素がほしい。
過呼吸。
愛がほしい。
渇望しているすべて。
あたしだってそうなのに。
誰にも負けないくらい好きなのに。
貴方の目線はいつもあたしではない別の方向だ。
折角隣に立てたのに見向きもされない。嗚呼、貴方の一番近くにいるのは紛れもなくあたしなのに。
肩を震わせて貴方は笑うように泣く。
「杜山さんは俺なんか見てくれない」
それを側で慰めるあたしは言う。
「そんな悲しみなんてあたしが忘れさせてあげたいわ」
だからどうかどうかあたしだけを見つめていて。嘆かないで。
報われないのなんてあたしも同じなのだから。
ため息も美しい人だった。
だからあたしは彼が好きだった。
彼はほんとうはあたしの遥か前にいるような人だった。
そんな彼の隣にいることを強く願い、叶ったとき。
彼と同じ視点に立ったときに真新しい光景を目の当たりにした。
貴方の隣に立てた。
同じ目線。
知りたくなかった。
貴方の近い体温。
眼差し。
貴方の見つめるその先。
震える唇に貴方のその眼差しのようにやさしくキスをしたい。
行き場のない愛だらけの空間で、酸素のない透明な水槽で、魚のように。
あなた。
あたし。
しゃぼんだまをつくりながら、キスをして溺れましょうか。
嘆かないで