16になった。高校生。そこまで悪くない頭のおかげで、まあ、そこそこの、校則のゆるい高校に進学した。前髪だけ染めていた髪も高校進学に連れてすべて金色にした。これといった理由はないけど。目立ちたいわけでも悪ぶりたいわけでもなく、昔母親がやっていたからやってみたくなっただけという、高校生ならではの、そんな感じ。
それらと一緒に、俺はバイトもはじめた。地元の、どこにでもあるような普通のファミレス。
キッチンを希望したのはただ客と会話するのが苦手だからだった。生まれながらの無愛想な顔、それに拍車をかける目付きの悪さ。お世辞にも人当たりのいい顔ではなかった。


「…あの、…」

バイトという新しい生活にやはり最初は戸惑うことも多かったが、半年も経った今では料理の作り方、物の配置も完璧に覚えるまでになった。先輩たちとの関係もそこそこに良い。

「…なに」
「あっ、えっと、ストローを補充しようと思って…でも、箱が少し高いところにあって、わたし、届かなくて…それで…あの…」

ただひとつだけうまくいかないのが、このぴよぴよ鳥頭の同年代のバイト仲間である。いつもふわふわしてる轟のことを、俺はあまり得意ではなかった。こう、浮世離れしているというか、自分との性格の差を感じるというか。俺がひとつため息をつくだけで、彼女は肩をびくりと跳ねさせてとても申し訳なさそうな顔をする。
そういうのが嫌なのだ。
箱を取ってほしいと頼むだけなのに、どうしてそんな苦しそうな顔をしてうつむくのか。いくら店長に言われたからって、俺のことが苦手なのなら話しかけてこなければいい。それをこいつは、どうして、

「あの…さとーくん…無理なら…」
「無理だなんて言ってないだろ、取ってやる」

ぱっとあがる顔、うっすらと涙の浮かんだ目で轟はありがとうと笑った。こういう表情がころころ変わるとこも好きではない。高校生にもなって素直すぎる轟は、一緒にいると、俺がおかしくなってしまいそうになる。

「…ん」
「あ、ありがとう…!」

ストローの入っている箱を轟に渡すと、ふにゃとなんともまあ気の抜けた、轟らしい、綺麗な笑顔をみせた。
ひよこ頭で頭は悪いし高校全然行ってないし帯刀だしアホだしろくでもない店長をかっこいいと頬染める彼女は、愛らしい笑顔とさも当たり前かのような優しさでいつも俺に接してくれる。それなのに俺はなぜかいつももやもやとしたものを胸に感じる。

「本当に助かったわ、ありがとう、佐藤くん」

にこりとまたいつもの笑みを見せると、轟はぱたぱたとフロアに戻っていく。
倉庫に残された俺は、胸に渦巻くもやもやしたそれが、初めに会ったときから日に日に強くなるその感情が、今日、まったく別のものに変わったのを感じた。それはまるで、とても、






(恋に似ていた。)