「雪男、お前、今いくつ?」
「なに言ってるの兄さん」


それは子供の頃、公園のジャングルジムのてっぺんに座りふたつに割れるアイスを二人で食べているときの出来事だった。


「僕らは双子なんだから、僕と兄さんは同じ年じゃない」
「ちげーよ、精神年齢のハナシ」


Big Child



二〇一〇年、アメリカの研究者ハルミトン・フィッシュは大人の若返りに関するレポートを発表した。研究対象は二十歳丁度の成人した男女(百組)で彼の研究によれば、彼らの平均的精神年齢がおよそ十六歳であったそうだ。そのニュースは国際社会全体を驚きに包みそして二十年経過した現在の教育システムを大きく変動させた。二十五歳未満は精神年齢の鑑定、肉体年齢の鑑定が義務とされ、それに応じて子供は進学をする。しかし、それはもしかすると分類と呼んだ方がいいのかもしれない。精神年齢が本年齢に相応しい子供はエリートとして教育され今後の国家、国際社会の一員として大きな役割りを担うこととなる。しかしそれをあざ笑うように、大人の若返りは深刻さを増すばかりだ。フィッシュが唱えた二〇一〇年から十年後には二十歳の成人平均精神年齢は一五歳へ、そして二十年後にはついに一四歳まで低下してしまった。ぼたり。握っていたアイスの容器から溶け出した液体が地面に溢れる。小さな染みを作り消えたそれをメガネ越しに見つめた。

「十三歳だよ」
「すげえ、本年齢より一つ上じゃん!雪男エリートだな!」
「たまたまだって」

さすが雪男!とばんばん僕の背中を叩きながら笑う彼に向かって照れ隠しのようにそう吐いた。嘘だ、まぐれなんかじゃない。僕は幼稚園で初めて精神年齢検査を受けた時から本年齢と精神年齢に大差がない。

「じゃあ雪男、来年東京の中学行くんだ」
「うん。すっごいやだけどね」
「ほんとにすげーよ!けど寂しいな!」
「しえみさんがいるじゃん」
「そりゃあそうだけどさ…」

地元を離れ幼馴染たちと離れて僕は輝かしい未来をつかむ、だなんて馬鹿らしい。僕は決してエリートなんかじゃない。ただ、普通に成長してるだけだ。

「まぁ、でも精神鑑定で内申取れても筆記と二次で落ちるかもしれないし」
「それはねえよ、雪男なら!」

夏休みは残りあと二日だった。彼は買ったばかりの地元中学の制服で、僕は今年で最後になる地元小学校の体操着だった。もうなにも言わずジャングルジムの上から遥か遠くにある海を二人で見ていた。世界はどこまでも広がっていて、東京でさえも遠すぎて、僕らはあまりにも小さくてなぜか悲しくなった。








それからも僕は普通の速度で成長した。肉体年齢だけは中学に上がってもあまり変わらなくて小学生の身長のままだったけど、高校に上るとそれさえも平均以上に達した。幼馴染のしえみも兄も地元の高校に進学した。自分だけがまだ東京にいた。大嫌いな東京の、行きたくもない高校に進学した。

周りから貼られるエリートのレッテルが痛かった。















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雪男好きすぎて考えてたら意味がわからなくなりました\(^O^)/


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