※色々ひどい
「ほんとに気持ち悪い」
彼は頭がわるい。何度言われたって授業で習ったことは理解してないしテストはいつもぎりぎり回避だし(赤点のときもある)詠唱騎士を目指しているくせに呪文はなにひとつ覚えていない。追試だって居残り補習だってもう常連だ。言い出すとキリがなさそうなのでそろそろ黙ることにしたい。彼は馬鹿なのである。しかし、しかし彼はそれを補うように優れた能力を持っている。
コミュニケーションがうまいのだ。
初対面の人さえも仲良くできる巧みな話術、隅々まで行き届く観察力。
彼は沢山の人に愛されていた。あたしもその一人である。彼の優しさ、人柄、声。あたしとは正反対の彼に憧れていた。
だからその憧れから与えられた言葉に戸惑った。あの日からもう、半年。
「あんたって生きる価値がない」
「うん」
「公害だから早くいなくなってよ」
「うん」
「あんたが嫌い、全部嫌い」
「うん」
「出雲ちゃんの冷たい目、きつい言葉が好きなんです。ほんま憧れてる。だから頼んます!どうか俺を罵って?」
憧れていた彼に憧られていたあたし。
嬉しいはずの願われたその願い。
彼のすべてを否定すること。
「志摩なんか、嫌い、嫌い、嫌い」(ねえあんたが好きなのよ)
「早く消えちゃえ」(気づきなさいよ、馬鹿、変態、ドM)
「あんたなんか、嫌い」(何度でも言うわ、あんたが好きよ)
「出雲ちゃん、もっと!もっと、もっと罵って、っ」
「うるさいから喋らないで、気持ち悪い」(いつになったらちゃんとほんとの気持ち言えるのよ!)
たったその二文字が言えない
(気持ち悪いのですぐ消します)