さくらいろ


少しだけ開いていた窓からひらりとなにかが舞って入ってきた。
なんだこれ。頭に載ったそれを手で摘む。

「あ」

なんてことはない、それは桜の花弁だった。

そうか、もうそんな季節なのか、春なのか。よくみれば普段なんとも思わずに歩いていた通りの桜の木には、小さな蕾がついている。早いものはもう開花しているのか。
ひらひらと舞うそのピンク色は、とても綺麗だった。

もしここで窓を全て開け放ち花弁部屋の中に迎え入れたとしたら、あと二十分ほどで夕飯の買出しから帰ってくる波江にこっ酷く起こられるのだろう。誰が掃除すると思ってるのよ、とかくどくどと。


「ははっ」


そんな秘書のことを考えたら、なぜか気分が落ち着いて、笑みが零れた。



ピンクと君と桜ひらひら

(ただいま)
(お帰り波江!)
(・・・なにやってんのよ)
(部屋を桜の花弁で埋めてみようかと思って)
(馬鹿なこと言ってないで早く窓閉めなさい。全く、誰がそれ掃除すると思ってるのよ)
(あ、やっぱり言った)




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