幼い頃からいつも一緒にいる彼女が最近変わった。以前よりも表情がゆたかになってよく笑うようになった。わたしだけじゃなくて塾の子とも仲良くしはじめて、といっても彼女の性格上限界はあるのだけれど、親友としては嬉しいような少し寂しいような気持ち。わたしの髪を櫛でとかす彼女をちらりとみると微笑んでいた。


「朴は綺麗な髪で羨ましい」
「そんなことないよ、出雲ちゃんも綺麗な髪してる」
「あたしと朴は質が違うもの。朴のは細くて柔らかい優しい髪」


するすると彼女の操る櫛はわたしの髪と髪を通り抜けていく。夕方の教室にはわたしたち二人だけで窓から覗く沈みかけている夕陽は昔境内から二人でみたそれに似ていて、なんだかひどく懐かしくなった。綺麗な夕陽だね出雲ちゃん。そうね朴。ミンミンと蝉の声が遠くで聞こえた。もうすぐ学校も夏休みだ、そしたら塾をやめたわたしは里帰りをするから、彼女とは二学期まで会えない。わたしがちょっとしたセンチメンタルに浸っていると、はいできた、と彼女がわたしの肩を叩いた。頭の上のほうにうまくまとめあげられた自分の髪をみてありがとう出雲ちゃん、とお礼を言う。どういたしまして、と彼女の笑った顔は今までみたことのないくらい優しくて暖かくてきらきらしててとても可愛らしかった。ああ、彼女はこんな表情ができるほどに成長したのか。そんな彼女をみたわたしは嬉しくて嬉しくてつられて微笑んだ。これもきっと、あのひとのおかげなんだろう。


「それにしてもあいつ遅いわね」


こんなに遅いなら早く帰っちゃえばよかった。腕時計をみながら悪態をつく。しかしやはり顔はどことなく嬉しげで、彼が好きなことがわかる。


「…ふふ」
「朴?」
「ううん、可愛いね出雲ちゃん」
「、ッはあ?どこが!」
「ぜんぶだよ」
「い、意味わかんない」
「大好きなんだね、志摩くんのこと」


ほら、とわたしが指差す彼女の顔は彼の名前が出たとたんクラスメイトの杜山さんに負けず劣らずの赤面だった。ぱ、ぱぱぱ、ぱ、朴!両手をぶんぶん振りながら慌てる彼女は彼と付き合いはじめて変わったように思う。もちろん最初彼と付き合うことを知らされたときは、彼が悪い人じゃないことはわかっていたし彼女を本当に好きなのもわかっていたから止めはしなかったが、やはり少し寂しかったし正直嫉妬もした。でもわたしは結局彼女が大好きで、そんな彼女が好きになった彼を嫌いになんかなるはずなくて。優しい彼と優しい彼女はとてもお似合いでわたしも嬉しかった。


「出雲ちゃんほんとに可愛い」
「朴のばか」
「ふふ、志摩くん、向かえに行こうか」
「え」


きっとまだ補習室で分厚いプリントに囲まれ悪戦苦闘する彼を向かえに行こうと提案すると、彼女はぱあっと顔を明るくさせて何か思いだしたように顔を赤くして咳払いをひとつすると、しょうがないわね、と嬉しそうにかばんを持ちあげた。微笑む横顔は、やはり綺麗で優しくて暖かくて、きらきらしていた。


「出雲ちゃん」


ん?とドアに手をかけて振り向く彼女を数秒みつめると彼女はくすりと笑って、大丈夫よ、と言った。


「あたしとあんたは例え何があっても親友なんだから」


ほら行くわよと教室から出ていった彼女の後を追い、夕陽が窓ガラスに反射してきらきら光る廊下を二人、手を繋いで歩いた。



(例:どちらかに彼氏のできた場合の親友との関係)



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