※大学生くらいの設定でなんかそれとなくそんな雰囲気


朝また知らない男のベッドの上で目が覚めた。下半身に走る嫌悪感。隣には見知らぬ男が寝ていた。確か昨日は大学のいつも一緒にいる奴らに合コンに無理やり連れていかれてそこでまた性懲りもなくあたしは酔っ払ってそのときたまたま傍にいたそこそこ顔のいい、でもあたしの好みじゃない男とそのまま流れでこうなったんだっけ。覚えてない、頭がいたい、二日酔い、最悪。ベッドから起き上がるとあたしは床に乱暴に散らばってる服を掴んで風呂場に向かった。一晩一緒に過ごした見知らぬ男の家でシャワーを浴びれるなんてあたしは度胸がある、なんてぼんやり考えながらさっさと汗でベタつく髪と身体を洗った。適当にそのへんの綺麗そうなタオルで髪をふいて服をきて冷蔵庫から水の入ったペットボトルをひとつ拝借して鞄を持って家をでた。男はまだ寝ていた。さよなら知らない誰かさん。

ぶらぶらと街を歩いてもなんにもなかった。時間はまだ8時だし、どこか店に入る気分ではなかったし、どうしようかなあなんて考えてたときに服が昨日のまま、つまりこのキャミソール一枚のことに気づいて家に帰ろうということになった。そもそも最初から家に帰るべきだった、思いつかなかったのは思考回路がうまく働いてないからだろう。今日は講義が3限目からだから結構ゆっくりできる。そのときだった。

「あっ出雲ちゃん!」

聞き覚えのある声に振り向く。振り向いてからあぁと後悔した。声の主はわかっていたのだから無視すればよかった、ほんと、今日のあたしはツイてない。


「奇遇ですなぁ」
「なにしてんのあんた」
「いやぁ今から家帰るんですわ」
「また朝帰り?呆れる」
「そういう出雲ちゃんもでしょう?」

にっこりと子供みたいな笑顔を向ける志摩に一発エルボーでもかましてやろうと思ったが今のあたしにそんな気力はなかったらしい。大丈夫ですか?なんて志摩が手を伸ばしてくるものだからまた余計に鬱陶しい。

「触らないでよ」
「せかて、出雲ちゃん具合悪そうですし」
「…二日酔いなだけ」
「ウチ近いですから寄ってって下さい」
「は?別にいいわよ、」

あたしは帰る、と言おうとしたところでぐんっと有無を言わずに腕を引っ張られたものだからたちまち抵抗なんてできなくなった。こんなときばかり男女の差がうらめしい。腕力なんか敵いっこないではないか。ずるずる引きずられるようにして着いたのはそこそこましなマンションだった。エレベーターに乗って部屋に行く。そのあいだも志摩は一人でぺらぺらしゃべっていた。ふうんとかあっそとかあたしが適当に相槌を打っていることに気づいてるくせに、志摩はしゃべっていた。志摩の部屋は人並みに綺麗に片付けられていて少し驚いた。服もちゃんとクローゼットの中にしまってあって食器も洗ってあってなんだか感心した。今朝居たあの男の部屋よりも居心地がいい。志摩が冷蔵庫を漁ってるのを見ながらあたしはベッドに腰かける。

「そいや出雲ちゃんが部屋来たの初めてですなあ」
「別に来たかったわけじゃないけどね」

相変わらず連れへんわ、とか言いながらちゃっかり隣に座ってきて、なんか距離が近くて、そういえばあたし今日ショートパンツだったなぁ、なんて思ってたら冷たいオレンジジュースの缶を差し出された。なんでこんなのがこの家にあるのか聞いたら彼女がオレンジジュース好きやったんよ、なんて言われた。聞くんじゃなかった。プルトップを開けてオレンジジュースを流し込む。少し酸っぱいけど冷たくて美味しい。ふと隣に座る志摩をみたら右頬が少し腫れてた。

「どうしたの、その頬っぺ」
「ん?あぁ、これですか?彼女にやられました」
「またバレたの」
「年頃ですからね、出来るだけ沢山の女の子と付き合いたい言うのは本望でしょ」
「だからって5股も6股もよくかけるわね」
「別に結婚してるんちゃいますから」
「それもそうね」
「でも一番好きなのは出雲ちゃんですよ」

身体に響く志摩の言葉。何度目だろう。数えるのにも飽きてしまった。こんなもの受け流してしまえばいいのに、この男はそうさせてはくれないのだから腹がたつ。静かな機械音が部屋に響いていた。エアコンの効いてきた部屋でキャミソールにショートパンツなんていう今の格好は少し肌寒い。

「その台詞、聞きあきた」
「本気ですよ」
「それも、しつこい」

タン、と音がして志摩が持っていた缶をテーブルの上に置いた。あたしは素知らぬ振りを続けてまたオレンジジュースを喉に流し込もうとしたけど志摩によってゆっくりとベッドに押し倒されてしまった。ぱこん、なんて間抜けな音をたてて缶が床に落ちる。そこから溢れて染みて広がるオレンジの水溜まり。

「出雲ちゃん」
「なに」
「好きや」

聞き覚えのある聞き飽きたその言葉は事務的に発せられるあたしたちの間での合言葉のようなものであった。あたしもこいつも今朝まではお互いに名前なんて知らない身体の関係だけをもつ奴らのところにいて、たまたま街で会ったみたいなことを言いながらほんとはお互いを探していて、結局こんなことしたいが為にお互いを利用してるのだ。空いた溝を埋めるために互いを利用してるのに埋めようとすればするほどその溝は空いていくエンドレス、生産性のないループ。都合のいいように解釈して気分にあわせて身体を交わらせて、ああ悲しい二人、あたしとこいつ。

「あたし、今日講義あるんだけど」
「奇遇やね、俺もや」

にやりと意地の悪そうな笑みを浮かべる志摩を見ながら、あたしもこんな顔してるんだろうななんて思った。でもあたしはそんなこいつを嫌いにはなれないし、こいつもあたしを嫌いにはならないだろうな。確信はないけど。時間的に今日の講義には間に合いそうにない。でももうどうでもいいかな、うん、どうでもいいや。

「出雲ちゃん、大概いい性格してますよね」
「あんたもでしょ」

はあ。わざとらしく溜め息をついた彼があたしのキャミソールに手をかける。



111015デザイン変更

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -