こわいよ、こわい




私は怖かったのだ。
恋愛と言う物により、豹変して行く自分の気持ちが。




愛していたのは自分の弟。
その弟にできた恋人。私の弟。弟の恋人。

そんな複雑な思い全てを理解していた人物は私に好きだと言った。
愛してる、と愛の言葉を説いた。


最初は相手にしなかったのだ。平気でいられた。


しかしそのうち気づいてしまった。
彼を見ていると胸の鼓動が高鳴り、頬が自然と紅潮してしまう自分が、この世の誰よりも醜く忌々しい存在だと、確信してしまう自分が。




自分による自分の憎悪が次第に膨らみ、
嘆く場所が亡くなってしまった故に私は過ちを犯してしまった。



ほんの軽い気持ちだったわけで、罪の意識はなかった。



其処からの意識はない。
気が付いたら私は右手に剃刀を持ち左手首には醜い傷が幾多も入っていた。私はそれが自分で行った行為だと理解し、右手に持っていた剃刀で左手首に切り傷を一つ付けた。
剃刀で切り傷を付ければ付ける程、憎悪は薄れていったのがわかった。それなのに私と言う存在は消えない。

その事実に私は絶望した。



だから私は彼に、私に恋愛と言う存在を教えた彼に頼んだのだ。





私を殺して、と。







彼は一瞬、戸惑ったような、困惑したような表情で私を見つめた。


彼は「どうして?」と。
どうしてそんなこと言うのかと投げかけてきた。


それに私は「私という存在がこの世界に要らないからよ」と答えた。


彼は私の左手首の醜い傷を見、私の瞳を覗き込み、「時間が欲しい、三日待って」と言った。私は返事を三日待ち、返事を聞いた。




彼の返事はイエス。

即ち私を殺してくれると、そう言った。



死に場所は彼の部屋。
どうせなら屋上とかで突き飛ばしてくれればいいのに、なんて思ったが彼のやり方に任せようと最初から思っていたのでそこはなにも言わなかった。


彼が取り出したのは大きな包丁。


まるでドラマみたいだと思えた私は余裕だな、なんて考えてるうちに彼は取り出した包丁を私の腹部に押し付けたのだ。



声にならない痛み、口からは逆流してきた血が流れるのがわかった。私は彼に聞こえるように、ありがとうと、彼を抱き締めながら、私を殺してくれてありがとう、と囁いた。



もしかしたら、私は彼が好きだったのかもしれない、だなんて馬鹿みたいに確かな錯覚に陥りながら。


否、錯覚ではなかったのかもしれない。
意識が遠のき、刺された痛み感じなくなるのは一瞬で、その一瞬のうちに彼は私を抱き締めて涙を流しながら「ごめんね」と「愛してる」を繰り返していた。「なみえ」と私の名前も呼んでくれた。それがとてもうれしくしあわせだったのが確かな証拠だろう。













「それが例え未遂だとしても、犯罪だとしても、彼は私を殺してくれた。苦しい世界から消そうとしてくれた。この下らない世界が彼を悪と言おうと、私にとって彼は正義なのよ。」





彼女は語り終わると静かに目を閉じた。






自分の存在とこの感情の不確かさが怖い

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