なんでかって?なんでかしら。別に平気っていうか。もちろん他の人なら嫌よ。…愛ね、愛。貴方が好きだからだとしか言えないわ。
















昨日も今日も多分明日も、あたしの後ろには人影と足音がついて回る。それはあたしが速く歩けば速く、遅くなれば遅く、立ち止まれば止まり、延々とついてくる。まあつまりは俗に言うストーカー。

いつからだろうかと考えると、確か半年くらい前からな気がする。しかし、今やもう怖いとは思わない。




最初は洗濯して干したままだったワイシャツが盗まれて、変わりにベランダにある廃棄口の上に見慣れないものがちょこんと控えめに置かれていた。その中身は一万円札だったので、それはびっくりした。税込いちきゅっぱの安物が化けたかと思った。
そして不思議なことにあたしはそのストーカーを可愛いと思ったのだ。

それがかれこれ半年、ほんとうに、可笑しい、

















「いやいやいや、出雲ちゃんそれあきまへんて」
「そう?」
「変だしおかしいですって。警察とかに言ったん?」
「言ったらその人を裏切ることになるじゃない」





約半年前に知り合った友人の志摩は、恋人でもないあたしの話をなんでも聞いてくれる。
今日だってバイトで忙しいだろうにあたしに付き合ってくれた。でも少しだけ過保護だ。そんな心配しなくても、ストーカーがいるというだけで何かされたわけではないのだから。





「あんな出雲ちゃん、なにかされてからじゃ遅いんよ」
「あら、なにもされないわよ」
「、どうして、」




どうしてわかるん、と志摩は言った。
あたしは志摩の肩越しに向かいの席の家族連れが店を出ていくのを黙ってみていた。カップに手をやるとドリンクバーのミルクティーはだいぶ前に空になったのを思いだした。次はなにを飲もうか、ファミリーレストランのおとなしい喧騒に酔いしれる。





「わかるわよ」





そうだ、ココアにしよう。
あたしはそう決めると志摩の制止の言葉もため息もなんにも聞こえない振りをしてドリンクバーに向かった。

















ベランダからがさがさと音がする。
薄いカーテン越しにその秘密を覗くと、窓硝子の向こうにひとつの人影がゆらめいていた。


今日は干したままにしたなにを持っていくのだろうか。今日も一生懸命バイトで稼いだ一万円を置いていくのだろうか。何時になったら進んだり、引き裂かれたり、終わったり、潰れたり、後退するの?ねえ、志摩。





(こそこそしなくてもいいのに、)
そんな貴方も変わらずあいしてる










ストーカー志摩と知ってる出雲



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