これの伏線(ぽいの)



ひとつ220円、と段ボールには書かれてあった。中には赤いネットで纏められている蜜柑のグループがよっつ。財布のなかには230円あった。前に朴と行った、人気のパン屋さんのおいしいメロンパンが買える値段。駅から学校へ出るバスの一回分の運賃もたしか230円だ。傍に置かれたちいさな貯金箱に小銭をおとす。230円。ちゃりんちゃりん。十円多く入れてしまったのに気づいたのは最後の十円がちゃりんと貯金箱のなかで泣いてから。


蜜柑を一編み手にして、参考書でぎっちりな鞄のなかに押し込む。ふと聞き慣れたメロディが耳に流れた。携帯が鳴く、着信。

「もしもし?」

ディスプレイで確認した相手の名前は杜山しえみ。最近新しくアドレス帳にはいった番号。

「あっ、出雲?俺だけど。今から会えるか?」

低い声。奥村燐からの電話だ。杜山しえみからの電話ではなかったが、それはたしかに杜山しえみの携帯からだった。

「なによ、どうかしたの?」
「明日の小テスト赤点とったら補習だろ?危ないから、お前に教えてほしいんだよ!」

ああ、とひとり合点がいく。たしかに明日小テストがある。でも出題されるものは基本的なものばかりだから、普段から勉強していればなんら問題ないものだった気もするけれど。

「…いいわ、行ってあげる。ファミレス?寮?学校?」
「しえみん家。待ってる」

電話口の向こうで声がした。ねえ燐わたしこの服でいいかなあ。情けない、服くらい自分で決めなさいよ。

「しえみと、さっき連絡したら志摩もくるって。出雲、ほんとサンキューな」

電話がきれる。その直前に奥村燐が杜山しえみに出雲来てくれるって、と言った。杜山しえみがやった!と言ったのが、たしかに、きこえた。



杜山しえみはあたしのことが好きだった。そんな杜山しえみは奥村燐にずっと片想いされている。あたしがいちばん好きなのはたぶん志摩だ。だけど志摩は確実に奥村燐が好きなのだろう。それでもあたしたちは互いを仲間だと認識し、大切にしている。
だから、いつまでもともだち。


鞄から買った蜜柑を出して、剥いて、ひとつ口に放り込む。蜜柑は酸っぱかった。あたしは甘い蜜柑がすきだ。そういえば杜山しえみも奥村燐も酸っぱい蜜柑が好きだった気がする。二人にあげよう。蜜柑を鞄に入れて、杜山しえみの家に向かった。