ああなんなんだろうな、と俺はぼんやり考える。

それはそれはもう深い思考の交差だったから、戦争とか殺人とか大統領とか軍隊とかこの世界にある俺と彼女以外のものをすべてどうでもいいと思えてしまった。本当になんなんだろうな。俺はたったその答えを欲しがって思考を巡らせているというのに、悲しいほど解決の糸口なんか見えては来ない。

いや、むしろ。

毎日考えれば考えるだけほんの少しずつ俺自身が答えから遠ざかってしまっているような錯覚さえおきていた。ぐるぐるぐるぐる。俺の頭の中はただ回り続ける洗濯機みたいなものなのだろうか。今まで義務教育やなんやと大人たちに鍛え上げられてきた筈の俺の脳みそは肝心なところで役に立ってはくれなかった。ただおわりがないくらいひたすらに同じところを繰り返すだけ。
ほら、また。
いっそこの悩みも役に立たない脳みそも全部全部なかったことになればいいのに。なんてほのかに浮かばせちゃった俺は結局答えが出ないで逃避ばかり。


(彼女はあんなに一生懸命なのに)


ふと浮かぶのは波江のことだった。
あの人はいつだって凛としていて、真っ直ぐな人だ。隣にいて、尊敬していて、なのに、一番遠い人。

最近ずっとそうだ。

彼女の事を考えると心臓が握られたように苦しくなってしまう。そして絶対的な酸素不足に陥る。どきどき。ずきずき。 彼女の前にいるときはいつだって自分の心臓は通常のリズムを刻むことができなくなる。ああ、ほらまた。またわからなくなってしまった。一体、俺はなにをこんなに悩んでいてなんでこんなに頭の中がぐるぐるするのだろうか。おかしい。そうだ彼女ならこんなことはたぶんないはずだ。

彼女なら、矢霧波江なら。

あれ、さっきから彼女のことばかりじゃないかおかしいな。ちがう、大分前から自分は彼女のことはかり考えているではないか?




ぷつり




長い思考の螺旋はここでようやく息をつくことができた。そうなのか、なんだ、そうだったのか。自覚してしまえばそれはあまりに容易に飲み込める事実でしかなかった。
自分は、彼女が好きだ。
この病のようにまとわりつく感情は恋以外のなにものでもない。そうかそうか。好きなのか、彼女のことが。言い聞かせるように、小さく呟くと俺は顔をあげる。
沈み行く太陽も帰路を急ぐ小学生も流れる雲も揺れる草木もかけがえがないくらいに美しく、俺の眼球に色を残した。


春、落ちる。


精一杯の甘さ\(^О^)/
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -