もっと早くあたしがこの気持ちに気づけてたならよかったのだ、と今更思った。
いや違う、関係ないや。
多分気づくのが早かろうが遅かろうが、あたしが彼に告白することなんかないのだ。
いつか、いつかはと思い続けてもうどれほど経ったのだろう。あと何年片想いは続いていくのだろう。
永遠という言葉の意味に目眩がした。
なんでこんなに遠いのだろうか。
朝、珍しく早く来た彼と二人きりの塾の教室。あたしの特等席、斜めうしろから見えるうなじ、頭をかく仕草、でたらめな鼻唄。
「解らないところ、あるなら教えてあげるわよ」
後ろ姿に声をかける。振り向いた彼の笑顔が弾けた。
ありがとな、なんて言いながら、彼は奥村先生に出された分厚い課題を持ってあたしの正面に座る。
あたしの口から出る言葉を必死に聞く耳。忙しく文を追う目。睫毛。尖る唇。
「…で、こうなるの」
彼に説明しながら数式を用いて問題を解いたら拍手が起きた。
「出雲すげえな!」
(この素直さ)
(綺麗な手)
(指先)
(声)
(水分を含む瞳)
(特徴的な耳)
(好き)
(蒼い目)
(瞼)
(眉とおでこ)
(綺麗な肌)
(好き)
(全部好き)
(なんでこんなにも愛しいのだろう)
(彼は杜山しえみが好きなのに)
(可愛い)
(全て)
(全部が好き)
な
ん
で
い
ま
さ
ら
き
づ
く
の
だ
ろ
う
か
(遠すぎる)
あれ。
視界がぼやける。世界が、ゆっくりと滲む。
奥村燐の声。
なんであんた泣きそうなのよ。え?泣いてるのはあたし?ありえないわ、まさかそんな。
なんでって、失恋したの、それだけよ。
ああ、あたしだって本気で好きだったんだけどね。
「そいつ馬鹿だな」
「、どうして」
「出雲みたいないい奴、世界中探してもなかなかいねえのにな」
「……そうね」
(さようならさようなら)
(多分あたしは、貴方のことが好きだったの)
哭声