しずちゃん。

池袋にふらりふらりと立ち寄ると、必ず金色をした髪に似合わないバーテン服を着た彼に会えるあたしは毎回本気で運命ってあるんだって確信する。だから今日もいつものようにふらりと池袋に寄ってみた。ついでに大事な気持ちを伝えに。遠くにみえるいつもの姿。しずちゃん。ホラ、あたしが胸の中で彼の名前を呼んだだけで彼の鋭い目がこっちを向くんだ。そんでさ、彼の目に、くっきりはっきり、あたしの姿が映って、それで。

ぼっかーん!

耳がつんざくほどの音と共にあたしの横に電信柱がひとつ空からおっこちてきた。別に日常茶飯事だし驚かない、寧ろこれは彼からあたしへの愛のこもったプレゼントなのかな?そうだったらいいなあ、ありえないしあほらしいけど。一歩前にでると彼との距離が一気に縮まった。

「やぁしずちゃん!今日も元気みたいだね!あたしも今日は仕事は順調だしサイモンのとこで食べた大とろは美味しいし君と会えたしでとても元気だよ!」
「おま…池袋に来んなっていつもいつも…!」
「わかってるわかってる、あたしだって学習するんだ、君と違って」

ぶちん。なんか血管的なものが切れた音がするけど気にしない。ぴん、と人差し指を彼の目の前に突きだす。約10センチの身長差が、ああじれったい。

「好きだよ、しずちゃん」

言った瞬間、脳天に水平チョップを喰らった。痛い、死んじゃう。大袈裟に言ってみたけど彼からの返事はなんとも冷たかった。

「ふざけんなよ、おまえ」
「、ふざけたつもりは、ないよ」
「ふざけてんじゃねえか」

あれ、どうしたんだろう。心なしか今日はいつもより声のトーンが低いし冷たい。さっきまでの犬みたいな明らかな威嚇も怒りもなくなってしまった。静かに冷静に呟かれる言葉にあたしはただ少し動揺して、なんでこんなに怒ってるのか疑問に思った。どうして?

「人の気持ち弄ぶなよ」
「そんなつもり、」
「あるだろ」

乱暴に吐き捨てられた言葉に胸がずきんと痛んだ。違うよしずちゃん、今日は本気で君に好きだと言いにきたんだ、ねえお願いだからあたしの言うこと聞いてよ、ねえ!

ばちん。
鈍い音がしてあたしの手はひりひり、しずちゃんに伸ばした手がしずちゃんにはたかれた。触んな、って一蹴されて、あたしは。

「ッ、しずお…!」
「名前も呼ぶな」

お前みてると虫酸が走るんだ。そう言っていつもに増して三割ほど機嫌の悪くなってたしずちゃんは池袋の人混みの中に消えてった。もうあの金色の派手な髪も黒いバーテン服もみえない。運命なんてうそつきだ。しずちゃん、しずちゃん、しず、しずお。名前を呼んでも返事はない。あたしはどうしようもないほど寂しくなって虚しくなって苦しくって、なんだか泣きそうになった。

(からっぽ)


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