お前なんか大嫌いだと叫んだのに
きらきらと無数の星が瞬いている。黒と紺のグラデーションがかかった夜空を、俺はぼんやりと眺めていた。…あの頃は、朝から晩までサッカーをしていた。時間が経つのがあっという間で、楽しくて仕方がなかった。あぁ、あの頃はこの空を心から綺麗だ、思うことが出来たはずなのに。
何処からか、ボールの跳ねる音と、少し荒くなった息づかいが聞こえてきた。
ふと視線を下へ落とすと、松風が一人練習をしていた。何時間も練習を続けていたのだろう、汗は止まることなく、走るごとにきらきら光り、流れ落ちていく。楽しそうに、だが真剣に自主練をしている。風がひらひらとアイツを包み、一緒になってサッカーをしているようだった。
「あ、剣城!」
程無くして奴に気付かれた。ボールを脇に抱え、俺のもとに笑顔で駆け寄ってくる。
「お兄さんのとこ、行ってきたのか?」
「…あぁ」
「そうか!早く良くなるといいな!お兄さんも、サッカー好きなんだろ?」
「…あぁ、」
その後も俺に何か話しかけていたが、俺は面倒くさくなり、適当な相づちを打っていた。ふと、近くに置いてあったアイツの鞄と、ぐちゃぐちゃに放ってあった制服に気付いた。
「……家に帰ってないのか?」
「え?」
「ずっとここで練習してたのか?」
「あぁ!もう負けられないって分かったし、俺はサッカー、大好きだからな!何時間やってても飽きないよ!」
「…そうか」
幼少時を再び思い出し、また懐かしくなった。あの頃のサッカーをまた兄さんとやれたら、と思う自分がいた。
「剣城、ありがとな!」
「…え?」
「今日、練習付き合ってくれただろ?俺、あのおかげで何か掴めそうな気がするんだ!本当、ありがとな!」
「……そうか」
「…俺、お前のこと好きだぜ!」
「え、」
心臓がどくりと脈打つのが分かった。苦しいほどに生命活動を活発に行っている。
「ほら、先輩たちの中にはまだお前のこと認めないって人もいるけどさ、俺はお前を信じてる!帝国との試合のときだって本気でやってくれたし、俺の練習に付き合ってくれたし!」
「…………そっちか」
「え?」
どくりどくりと波打つ音はまだ止まなかった。意味を捉え違うなんて。だんだん恥ずかしさとイラ立ちが大きくなり、どうしたんだよー?なんて俺を覗き込んでくる奴に向かい声を荒らげた。
「うるさい!俺はお前なんか大嫌いだ!」
あぁ、くそ!なんで俺がこんな気持ちにならなきゃいけないんだ!
フイ、と奴に背を向け、早歩きでその場を去っていった。後ろで奴がなんか言ってるが、無視。一度も振り返ること無く歩いていった。
お前なんか大嫌いだと叫んだのに、
あぁもう。紅潮した顔が恥ずかしくて、片手で顔を覆った。