あの子の憂鬱


 スタイルがいい?当たり前でしょう!服が似合う?当たり前でしょう!だって私はスーパーモデル顔負けのプロポーションの持ち主ですもの。街行く年頃の女たちは私を目に留めると決まってこう言う。
「かわい〜い!!」
 目をきらきらさせて口々にそう言うものだから、私も気分が良い。けれど、絶対に「ありがとう」と言わない。女はすましているのが一番魅力的だって知っているから。
 ある日、私の前を全く同じ服を着た女が通ったの。見たことのある顔だから、多分私のファンか何かかしら。その女は私を一瞥するととても恥ずかしそうに微笑んだの。ふふん、自分が身の程知らずだと気付いたのねおバカさん!この服をばっちり着こなしているのは私。やっぱり私が一番なのね!
 それからずっと私は街中に立ち続けた。女たちに「かわいい」と絶賛され、時には「こんなスタイルが良かった」と羨望の言葉を浴びながら。
 しかしある日の夜、突然私の背後からにゅっと手が伸びてきて肩を掴まれた。その手には黒い薔薇のネイルアートが施されていて、それがすぐに店長だと分かったわ。
「ん〜…、あなたも随分傷んできたきたわねぇ。今日でお仕舞いにしようか。」
 お・仕・舞・い?ちょっと、汚い手で触らないでよ!ここに置いてくれたことには感謝しているけれど、私はまだここに立っていたいのよ!傷んでるですって?適当なこと言わないで頂戴!!言いたいことはたくさんあるのに口が開かないのよ。きっとあんまりショックだったからだわ。
 私はウインドウから引きずり下ろされ、代わりに店長が持ってきたのは新品の子。スタイルなんて私より良くって、お肌がピッカピカなの。
「おつかれさま。」
 擦れ違う時、そう言われたわ。店長の手が伸びてきて、私の服を脱がしていく。これからずっとこの服はあの子に着られるのね。いいえ、私がこれから着るはずだったたくさんの洋服は全てあの子が着ることになるんだわ。
 あぁ、私の前にウインドウに立っていたあの子も、こんな気持ちだったのかしら。


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