「おい、どうしたんだ、ぼーっとして」
「………………え?」
暫く間が開いたのは仕方がないことだと思う。
私が目を開けた時そこには織田作之助の顔があった。
私は暫くの間呆然とし顔をずっと眺め続けた。
「おい、本当に大丈夫か?自分の名前、年齢、出身地などわかるか?」
「わ…わかります」
(貴方の顔を見てびっくりしたなんて言えないよね…)
呆然としながらも頷くことはできた。
「おまえ、ここで倒れていたんだが … 」
「ここ?」
私は首を傾げながら織田作さんに聞いた。
「俺が孤児を引き取り育てているカレー屋だ」
「……」
思わず言葉が出なかった。
(これは夢だろうか?織田作さんが生きている。喋っている、動いている。目の前にいる)
─────まだ、ミミックとの抗争で死んでいないんだ。
「実は私も身寄りがなくて…所謂孤児というやつです」
あながち嘘は言っていない。
夢か現実であるこの世界で私の居場所はないに等しい。
元々トリップ者でこの世界に拾われ過ごしていたんだ。
それにこの世界は────現実じゃない気がする。
なんとなく感じる違和感、それにもし、もしも─────。
もしも、本当だったら、私は────。
「おい、顔色が悪いが大丈夫か?」
「……え」
「もし、家がなく困っているのなら俺の家で過ごすか?餓鬼たちと一緒だがな」
「え、あ、その…」
「すぐにとは言わない。孤児なら生きていける場所は限られてるだろう?ここなら衣食住だぞ」
「 ……───」
その後私は何て言ったのかわからない。
でも私は気が付いたら織田作さんと一緒に孤児の子供たちと一緒に過ごしていた。
「おーい姉ちゃん!今度はボール遊びしようぜ!」
「今度は私とお人形遊びする約束だもん!」
「いいや、俺とゲームする約束だぞ!」
わんやわんや。
子供たちは私が誰と遊ぶかで揉めている。
「皆、落ち着いて?ね?私は一人しかいないし順番に遊びましょ」
私がそういうと俺が一番最初だ私が一番最初だなんて揉めだす始末。
(あー…しまった、もっと喧嘩しだしてしまった)
どうやって納めたらいいんだろうと考えあぐねていると後ろから救世主の声がした。
「おまえらうるさいぞ。部屋の外まで声だだ漏れじゃねーか」
「織田作さん!」
私はあれから何日日を跨いだだろうか。
だが夢は覚めなかった。
私は何の因果かずっと織田作さんのところでお世話になっている。
(いつ覚めるんだろう、この夢…。いや現実?)
私は孤児の子供たちと一緒に過ごしながらいつこの夢か現かが覚めるのを待っていた。
「お姉さんは一人しかいないんだから取り合いはやめろ。じゃんけんでもして順番決めな。恨みっこなしのな」
「織田作言い事いうじゃんー!賛成!おまえらじゃんけんしようぜ!」
さんせーいと言いながら揉めていた子たちは一か所に集まりじゃんけんをしていた。
「悪いな、“お姉さん”」
「織田作さんまで私のことお姉さんと言わないでくださいよ…」
照れるし、実年齢は遥か彼方彼の方が上だ。
「お姉さんー!私とお人形遊びしましょ」
「いいよ。じゃ人形遊びしようか」
「わーい。遊ぶ!」
「じゃああっち行こうか」
「うん!」
お人形を持った女の子と一緒に部屋の隅で遊ぶ。
それを見た織田作さんはまるで姉妹みたいだな、と茶化し頭を撫でてくる。
「織田作さんも一緒にやります?人形遊び」
「いや、俺は遠慮しておくよ」
「えー織田作も一緒に遊びましょ?」
「……はぁ、仕方がないな。今日だけだぞ」
「とか言いつつ毎回付き合ってくれますよね織田作さん」
「気のせいだろ」
(本当に孤児には甘いし面倒見がいいお兄さんなんだな…)
そして私と女の子、織田作さんで一緒に人形遊びをした。
そのあとは他の子達とも遊び一日が暮れていった。
─────胸に残る嫌な感じを残しながら。
それから数日後。
頻繁に顔を見せに来る織田作さんが来なくなった。
(まさかもう…織田作さん安吾さんの秘密知った?ジイドと顔合わせした?まさかもう…)
私の中の嫌な予感が溢れては止まらない。
(でも織田作さんが死ぬときはここが爆破される時。でもまだここは爆破されていない。…………ということは近々来る?)
そう思った私は急いで外に出る。
───織田作さんに会わなければ。
その思いだけが私の歩みを進めていた。
(といってもどこに行こう…織田作さんの居場所わからないし、私の瞬間移動でポートマフィアに行ってここの危険、織田作さんの危険を直談判しても相手にされないだろうし…うーん……)
相手にされないでもいい、とりあえず、ポートマフィアに行こう、と思った時だった。
──────私が今までいた場所が爆発した。
それは派手な音を立て爆発し、家は、場所は火に包まれた。
─────肝心な車の存在と子供の存在を忘れていたのだ、遊びに行っていると思って。
(……う、そ…)
私が呆然と家だった場所を眺めていると辺りに野次馬と消防車がきた。
(……私だけ助かった?あの子たちは?皆は?)
呆然とした足取りで家だった場所へと足を進めようとすると後ろから肩を掴まれた。
「…お、だ……、さく、さん…」
私の肩を掴んだ人物は織田作さんだった。
織田作さんは無表情で燃えている家を見た後に私に言った。
私に声をかけてくれたのは泣き叫んだ後だったのだろうか、それとも前なのだろうか。
織田作さんは無表情で表情が読み取れなかった。
────織田作さんの涙は、もう流れていなかった。
「……俺はこれから決着をつけに行ってくる。今まで世話になったな、お姉さん」
だめです、死んでしまいます、行かないで、と言いたいのに口からは何も出ない。
ただ織田作さんを呆然と見つめるだけだ。
「それじゃあな、お姉さん…いや…、───」
「…ま、って……」
私の口から出た声は小さすぎる声だった。
すたすたと歩いていく織田作さん。
「…やめ、いかないで……ま、っ……て…!」
私の小さすぎる声は届かないのか織田作さんはもう見えなくなるところまで行っていた。
「…───待って、織田作之助さん!!!」
やっと出た大きな声は織田作さんに届いたのか織田作さんはぴたりと足を止め、こちらに背を向け一言言った。
「…じゃあな」
「───織田作さん…!!!」
織田作さんの小さな声は遠いところからでも私の耳には届いていていた。
「───やめていかないで!!!」
その声が届いたのかはわからない。
私はそこで意識が途切れ目が覚めたらいつもの、文ストの世界の自室にいた。
いつの間に布団に横たわっていたのかわからない。
鉛のように重い体を起こす。
────あれは、夢だったのだろうか、現実だったのだろうか。
でも私が感じた頭への温もり、話した言葉はどれも夢とは言えなかった。
───否、夢とは認めたくなかったのかもしれない。
「……織田作さん…!」
夢でも現実でもいい。
貴方と話せて触れ合えて私は嬉しかったです。