私、男性恐怖症です | ナノ

言いかけた言葉


「……は?」

たっぷり間を置いた安室さんのは?に対しシャロンさんはクスクスと笑っている。

「フフ…フフフッ……、乃亜はなんでそう思ったのかしら?」

シャロンさん笑いが抑えきれないのか笑いながら質問してきた。
安室さんは硬直したままだ。

「だって2人とも特別?なニックネームで呼びあってますし…そういう仲なのかな、と…」

「これはねお酒同好会のニックネームなのよ。だから深い意味も付き合ってるとかではないわ。それに私だったらこんな男ごめんだわ」

「あ、なるほど…私もお酒は好きなのでそういう同好会行ってみたいです。なんか勘違いしたようですいませんシャロンさん」

「今度来てみる?私とバーボンの2人でいいのなら」

「はい、是非!行きたいです!」

「…だ、そうよバーボン。いい加減いつまでも硬直したままだなんて男としてだらしないわ」

(シャロンさんって結構ズバズバと言う方なんだなー見た目通り)

それにしても安室さんはシャロンさんが声をかけても硬直したままだ。
もしかして本当はシャロンさんの事が好きだったのだろうか…?だから図星で困惑して硬直したままなのだろうか。


「…あの、安室さん?」

私からしたらかなり近い距離(1m)から話しかける。
普段は3m以上距離をとって話している。

話しかけて数秒、意識が戻ったのかこちらに何故か歩み寄ってくる安室さん。

思わず私は逃げ腰になり逃げるが逃がさないというよに腰と腕をがっしりと掴まれた。

(ヒェエエエエエ安室さんが近いぃいいいい無理ぃいいいい!!!)

そして真正面に向き合うようにやられ嫌でも安室さんの顔を見たくない私は俯く。
俯いた顎を安室さんは上げきっぱりと真剣な目をして言い切った。

「乃亜さん、あの女と僕が付き合ってるなんてありえないですから微塵もの可能性もないですから。僕には好きな人も守らなければならない人もいるんです」

「…あ、そうなんですか……」


つきん、と傷んだ胸を無視するように安室さんの綺麗な青い目を見つめる。

「だから金輪際そのような発言は控えてください」

「は、はい…」

安室さんの気迫に押されはいといい何回もコクコクと頷く。
ようやく納得してくれたのか手と腰を離してもらえた。

(こ、怖かった…。間近にイケメンの顔はあかん…)

あの時安室さんの顔はキスができるぐらい近くてびっくりした。
というか心臓に悪すぎて気持ち悪い…と1人考えていたら安室さんがシャロンさんに向けて言い放った。


「彼女は僕のものです。今度3人で飲むなどお断りです」

真剣にシャロンさんに向かって言う安室さんに1人ツッコミをいれる。

(いや、私は私のものであり安室さんのものじゃないんだけど…)


「あら、バーボンが言っても彼女が3人で飲みたいと望んだらその時は決行よ?」

「その時があればですね…」

バチバチ?と火花が見え、あ、この3人で飲むのは無理だ、と思った乃亜だった。





*

あの後シャロンさんはまた来るわと言い安室さんがまた睨みながら2度と来るなと言っていた。

このやり取りデジャブじゃね…?と私に手を振ってくれるシャロンさんに手を振り返しながら思った。


そして流れる沈黙。
あの後いきなり2人きりはきつい。
沈黙が重たすぎる。

(ウォオオオ梓ちゃんかオーナーはよ帰ってきてぇええこの空気を打開するための!!!)


「乃亜さん、」

この重い、重すぎる沈黙を破ったのは安室さんの方だった。
私は相変わらず距離を取りビクビクしながら答える。

「は、はい…」

「実は僕乃亜さんに言って起きたいことがあるんです」

「えと、それは一体なんでしょうか…」

真面目な顔をして見つめられる。
ゴクリ、と生唾を飲む。

(え?何死刑宣告?何言われるの?死刑宣告?やっぱり死刑宣告?それしか思いつかない!!!)


「実は僕乃亜さんのことをー「ただ今戻りましたー!」

安室さんがなにか言いかけた時カラン、と扉が開きそれに被せるように梓ちゃんの声が被った。

「あれ、安室さん乃亜に何か言いたげでした?ならお邪魔しましたけど…」

「いや、いいんですよ。大したことないので」

「そうですか?ならいいんですけど」


目の前で行われるポンポンとしたキャッチボール。
唖然としながら見つめていると梓ちゃんが私の名前を呼んだ。


「乃亜!」

「…えっ、なに梓ちゃん」

「実はねー仕入れの時にミルクレープ貰ったの!乃亜甘い物大好きでしょ?よければ一緒に食べない?あ、安室さんもどうです?」

「僕は遠慮しておきますよ。それにもう上がる時間ですし」

安室さんが時計を見ながら言ったが確かに安室さんのシフトだと上がる時間だ。


「あ、ほんとですねー。残念です。では、また今度!」

「…お疲れ様でした」

「はい、お疲れ様でした」

さっきの顔は如何に安室スマイルで去っていく安室さん。

(さっき言いかけたのってなんだったんだろう…)

私の思考を遮るように梓ちゃんがまた私の名前を呼んだ。

「乃亜!早く食べましょ〜!」

「…あ、うん、そうだね梓ちゃん」

私は皿とフォークを取りに棚に行った。







*


俺はさっき何を口走ろうとしていた?
あのままもし彼女に想いを伝えていたら…。

拳でロッカーを叩く。
ダァン、という音がしたが構ってられない。


「彼女はもし俺が告白して全て話しても受け入れてくれるだろうか…」

1人、安室の声がロッカー室に響いた。