上司が恋愛を拗らせすぎて辛い
警視庁公安部警部補風見裕也。
これが私の肩書きだ。
そんな私は今とある喫茶店にいて盗聴器まがいなとこをしている。
理由は遡ること数時間前ーーー。
*
「降谷さん、重要な任務とはなんでしょうか」
コンコン、とノックをして相手からああ、という返事があり部屋に入る。
私はこの日上司である降谷零に仕事部屋に呼び出されていた。
「来たか風見」
「一体なんの呼び出しでしょうか?」
「風見、僕はお前に重要で尚且つ高度な任務を授けたい」
降谷さん程の重要で尚且つ高度な任務をこなしている男はいないと思う。
ある時は探偵の下で働く安室透、そしてまたある時は黒ずくめの組織に潜入中のバーボン、そして本当の顔は警察庁警備局警備企画課所属の公安警察官。たくさんの部下を率いて日本を守っている男だ。
「僕が喫茶ポアロで安室透として働いてるのは知ってるな?」
「はい」
「なら今回はこの女性の行動を明日見守り何かあれば最優先で保護してほしいのだ。そして会話をレコーダーかなにかで録音して欲しい一言一句残らないように」
と言い渡された資料。
パラパラとめくっていくと顔写真と名前は斎藤乃亜と書いてあった。
「この斎藤さんをですか?至って普通な女性だと思いますが…」
「僕の想い人であり尚且つ明日ベルモットと居酒屋で2人で飲み会をするらしい。…くっ、羨ましすぎて仕方がない!こっちの仕事がなかったら行っていた!!だが2人に面が割れている以上迂闊に接触できない!!!」
バァン、と机を叩く降谷さん。
一瞬正直呆気にとられていたがこれも上司から任された任務だ。
「……わかりました。では明日この女性のそばにいればいいんですね?」
「個人部屋の居酒屋で飲むと言っていた。部屋はもう把握済みでありお前の部屋も予約済みだ。後で店の場所を携帯に送る。忙しい中時間を取らせて悪かったな」
「いえ、大丈夫です」
「では明日頼むぞ風見」
「はい」
と言い別れたのが昨夜。
そしてその居酒屋に来たのが今。
どうやら個室と言っても部屋は壁ではなく網で仕切られているようだ。
だが網の目は細かく相手がシルエットで見える程度だ。
もたれかかったりしたらわかるが普通では相手の顔までわからないようだ。
(畳の上にスマホを置く。録音系のアプリ入れあり録音ボタンONを押す)
そして自分も居酒屋でなにか頼まないと不審に思われるので生中と唐揚げを頼んだ。
時折後ろから聞こえてくるのはあのベルベットの妖艶な声と少し幼い声だ。
幼い声の持ち主の方が斎藤乃亜だろう。
斎藤乃亜は男性は無理、やっぱりシャロンさんが好き大好きを連呼している。
それに対し不愉快でもないのか嬉しいわと返事をするベルモット。
(どうやら仲は悪くないようだ。男嫌いな上に斎藤乃亜はベルモットに懐いてるようだ)
それと同時にベルモットも偽名か本名かわからないシャロンと名乗っている。
2人は話に花を咲かせている。
そこで斎藤乃亜がそろそろ帰りましょうか、と言いベルモットが送っていくわ、と言い断っているのが聞こえてくる。
だが押しに弱いようで最終的には負けているようだった。
それで私は2人に気づかれないように家までレコーダーONで尾行することにした。
特に何か重要な話がある訳でもなく斎藤乃亜の家路についたみたいだ。
どうやらマンションに住んでるようで入ったのを見届けた私はベルモットにバレないようにサッと去っていった。
*
という報告とスマホを渡した降谷さんから言われたことは一言だった。
「乃亜さんの家だと…!?羨ましすぎる」
上司が恋愛を拗らせすぎて辛い。