10/03 ( 22:49 )
天才画伯と唯一の理解者(free)

逢葵ちゃん宅のひなたちゃんとうちの知愛美の出会い。
しょっぱなから知愛美が振り回してますね…。


月城知愛美というのは、クラスでわりと有名な女子である。
まず、破天荒なまでな行動力、明るさ。
幼馴染であるという七瀬遙への真っ直ぐに突き抜ける愛情、どれだけ冷ややかにあしらわれてもめげない強靭な精神力。
そして、何よりも。

「じゃじゃーん! 見て見て! 新キャラ、フィッシュメンだよ!」
「またこんな気持ち悪い絵を描いたのか」
「気持ち悪くないもん!」

独創的すぎる、センス。
画力は恐らくかなりある方だとは思う。
この立体感と躍動感、そして人物の眼から感じられる強い生命力は、なかなか出せないだろう。
彼女が自慢げに見せびらかしている、白いキャンバスに描かれている人物――否、底知れぬ不気味さを感じられる人面魚を横から盗み見て、ひなたは思う。
ただ、あまりに前衛的すぎて周りの理解は得られないだろうが。

「いや、気持ち悪いよそれ」
「大体、なんで魚に人の顔ついてんの?」
「無駄に上手いし」
「酷ーい! みんなわたしの美術的センスについていけてないんだー!」

他のクラスメイトからも、散々の言われ様である。
それでも彼女はさほど傷ついた様子もなく、真っ直ぐに怒りを彼等にぶつけるのであった。

「ね、これすごくかっこいいと思うでしょ!? ね!?」
「はいっ!?」

突然、矛先がこちらへと向いた。
ひなたは思わずびくりと肩を震わせ、驚きのあまりに声をひっくり返らせてしまった。
真っ直ぐ綺麗に伸びてしまった背筋をそのままに、どう返そうかと思い悩む。
クラスメイト達のように否定してしまうのには少し罪悪感がある。
しかし、これを「かっこいい」と形容するセンスは、ひなたは持ち合わせていない。

「あ、あの……」

何か、彼女を傷つけず、上手く逃げられる言葉はないものだろうか。
しどろもどろになりつつ、必死に思考を巡らせる。
知愛美の期待に満ちた強く真っ直ぐな視線が、とても心苦しい。

「えっと……とても斬新なデザインで、素敵だと思いますよ……」

結局のところ、どうにか絞り出した言葉が「斬新」であった。
これ以上はもう無理だ。
引きつりそうな笑みを保つのにも、そろそろ疲れてきた。
すると、急に手を強く掴まれた。

「ほんとに!?」
「えっ……ああ、ほ、ほんとです、ほんと」

キラキラと純粋に輝く彼女の瞳に、嘘は吐けない。
しっかりと頷くと、彼女は胸を張って遙たちに勢いよく指を差した。

「はっはっはっ、やっぱ理解してくれる人はいるんだよー! ハルちゃんたちとは大違いだね!!」
「それって社交辞令だろ、どう考えても」
「無理矢理言わせてるだけじゃん」
「そんなことないもん! ひなたちゃんはそんな子じゃないもん!」

ドキリとした。
彼女とまともに言葉を交わしたのは、確か初めてだったように思う。

「あれ、わたしの名前……」
「あれっ? ひなたちゃん、じゃなかった?」
「いえ、合ってます、けど……」
「だよね!? よかった〜!」

どうして知っているのかと聞きたかったのだが、彼女の爽快な笑顔を見ているとどうでもよく思えたのだった。



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