10/01 ( 22:34 )
Nostalgia

たぶん2期ぐらい。
まだ少し気まずいけれど、だいぶ溝は埋まったかな?っていうふたり。



濃い紫の空、点々と浮かぶ夕映えの雲が緩やかに流れていく。
ゆっくりとした足取りで何もない道を歩く二人の足元からは、くっきりと形を示した影がわかりやすく大小の差を表して、橙色に染まる地面に伸びていた。
少し肌寒いにも関わらず、チューブに詰まったシャーベットを至福な顔でくわえる彼女の横顔も、眩しく輝いていて、いつもと変わらない風景なのに何故かいつもより惹きつけられた。
あの薄らと迫り来る夕闇のような、ほの暗く身体にのしかかる沈黙が二人の間を支配する。
聞こえるのは、彼女と自分の異なるリズムで鳴る足音と、時折ガードレールの横を通り過ぎる車の音だけ。

「別に、わざわざ迎えに来てくれなくてよかったのに」

不意に、小さく空気が震えた。
何食わぬ顔で、滴が言った。
二人だけの時間が欲しかった、なんてわざわざ口に出して言えるはずもなく、凛は押し黙った。
隣を歩く彼女は一切こちらに目も暮れず、ただただぼんやりと前を見つめている。
こちらの気持ちなどこれっぽっちも伝わることなく、もどかしさに駆られて少し顔を顰める。
少しばかり不自然な間が生まれてしまった後、凛は尤もらしく返す。

「こんな時間にお前一人で出歩かせられっかよ」
「こんな時間って、まだわりと明るいけど」

絶妙に鋭く指摘され、再び言葉を詰まらせる。
あながち彼女に言ったことは嘘ではないが、決まりが悪くなってそっぽを向いた。
こんな格好悪い顔、見られては恥である。
そしてこの気まずい空気を払拭すべく、少々自棄になって声を張って。

「小学生と間違えて変な奴に誘拐されるかもしんねーだろ」
「はっ!? あたし、もう立派な高校生ですけど!」
「よく言うぜ。身長いくつになった?」
「150cmジャスト」
「中学生ぐらいには見えるかもな」
「ちょっと!!」

実にくだらない会話ではぐらかすのであった。
身を乗り出す勢いで憤慨する滴を尻目に、夕陽を浴びながら凛は人知れず穏やかに微笑む。
ちょっぴり昔に戻れた気がして、無性に懐かしく感じられて、気分が良かった。

「凛くんの意地悪!」

しかし、気分が良いのは自分だけだったらしい。
不機嫌にぶつけるような言葉に向き直ると、いじけたような膨れっ面で睨み上げられていることに気付く。
少々からかいすぎたかもしれないと反省した時には遅く、彼女は眉を寄せたまま前方を睨むと、今までより歩幅を広げ、早足で進んで行ってしまった。
呆然と、一拍遅れて、慌てて彼女に追いつく。
皮肉なことに彼女と凛とでは脚の長さが違うので、容易いことではあった。

「わ、悪かったよ……」
「ふんっ」
「ほ、ほら、アイス奢ってやるから機嫌直せって」
「アイスで釣られるあたしじゃないから!」

アイスを手放そうとしないその状態で、よくそんなことが言える。
思わず口に出して突っ込みそうになったが、余計に怒らせてしまうのは目に見えているので、慌てて呑み込んだ。

「つーかそこまで怒ることかよ」
「凛くんがいつまでも子供扱いしてくるからでしょ!」

憤慨する彼女の言葉に、違和感を感じた。
そんなことで怒っていたのかという疑問と、どこまでも自分の想いが伝わらないもどかしさと。
だが、思っていた以上に彼女の眼は真剣で、このまま誤解されてはいけない気がした。

「別に、子供扱いしてるわけじゃねーよ」
「えっ」

急に、彼女の足が止まった。
真ん丸に見開かれる彼女の瞳は、僅かに揺らいでいた。

「大体、お前なんかに子供扱いするわけねーだろ。お前は、俺にとって……」

こんな時に、一瞬の躊躇いが生まれる。

「……大事な、家族なんだからよ」

一番に思い描いていた言葉を伝える勇気は、生まれなかった。
自分の中で曖昧な意味を持つ、逃げ道である言葉に頼ってしまった声は、ほのかに弱々しく。
気まずく逃げだしそうな視線の先には、揺れ動く瞳。
歓びを感じているのか、それとも――彼女の心境はわからない。


「ほら、もう暗くなってきちまったじゃねーか。早く帰るぞ」

先程よりも色に重みが加わる空を見上げながら、彼女の前に手を差し出す。
その先を一瞥すると、拍子抜けする彼女。
次第にその瞳は優しく和らげられて、次の瞬間、差し出した手は彼女の手の温もりに包まれた。

「うん」

ひんやりとした空気を運ぶ緩やかな風に背中を押され、彼女の変わらない温もりを感じながら、彼女の歩幅に合わせて再び歩み出した。
まだ幼かった自分たちがこうして同じように通った道を、もう一度ふたりで。


夕闇の空に滲み、もう間もなく沈みゆく夕陽に昔の幻影を見た気がした。




back



「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -